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2008年05月06日(火曜日)付

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地球の温暖化―「炭素の夏」に国境はない

 人はみな息をしている。動物も植物も微生物も呼吸する。こうして出る二酸化炭素(CO2)の量はどのくらいか。ノーベル平和賞を去年受けた「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」の科学者たちは、その見積もりを報告書に載せている。

 それによると、陸上の生物界が大気に吐き出す「自然の息」は炭素の量で年間約1200億トン。一方、現代文明が石油や石炭などを燃やすことで出す量はその5〜6%ほどにすぎない。

 ゆがむCO2の収支

 これなら、いまの暮らしを続けても大丈夫だ。そう思ってはいけない。自然の息は、それにほぼ見合う量が植物の光合成などで生物界に戻される。ところが、「文明分」が加わることで、CO2の収支がゆがむ。

 地球を覆うCO2は、もともと「温室」の働きをしている。増えすぎると、地球を過度に暖めることになる。これが温暖化だ。

 大気のCO2濃度は産業革命前より3割以上ふえた。CO2の収支をなるべく均衡状態に近づけ、平均気温を1990年に比べて2〜3度以内の上昇に抑えなければ、被害は世界全域に及ぶ。これがIPCCの見立てだ。

 CO2は人も口から出しているものだから、排出してもその周りにただちに害を及ぼすわけではない。一つの国の一つの工場が出したものが、地球の大気という大きなプールの中で自然の息に上乗せされ、徐々に危うさを増していく。黒煙をもくもく吐いたり、廃水を海や川に垂れ流したりといった、いわゆる公害とは性格が異なる。

 自分の国だけが排出を抑えれば事足れり、というわけにはいかない。よその国も同調してくれないと、問題は解決しない。地球規模の視点を持って臨むことが大切だ。

 「炭素の夏」という言葉がある。ノーベル平和賞をIPCCと一緒に受けたアル・ゴア前米副大統領が受賞講演で口にした。温暖化を、核戦争が生態系を台無しにする「核の冬」と同列に置いたのだ。どちらも地球規模の災いであり、それを避けるには世界が一つになって立ち向かう必要がある。

 冷戦から「暖戦」へ

 国際社会が温暖化との戦いに大きく踏み出したのは92年だ。

 気候変動枠組み条約が採択され、地球サミットがブラジルで開かれた。条約は、CO2などの温室効果ガスの悪影響を食い止めるのが狙いだった。前年暮れにソ連が崩壊していた。東西対立の冷戦が、人類対炭素という「暖戦」に移ったのである。

 以来、国際社会は脱温暖化の知恵を少しずつ身につけてきた。

 一つは、CO2をタダではむやみに出させないという考え方だ。

 出せば出すだけ損をする仕掛けをつくって、排出を抑えようというのである。具体的には、燃料などにかける環境税や、決められた枠を超えて出せばよそから余った枠を買うことになる排出量取引がある。

 もう一つは、国境を超えて対策を進めようという流れだ。自分の国で排出量を減らすことと、外国を手伝って同じ量を削減することを同等に評価しようというのである。

 この二つの知恵は、今年から実施に移された京都議定書でも生かされている。国同士の排出量取引が盛り込まれた。先進国が途上国の排出削減に力を貸せば、減らした分の一部を自国の削減量に組み込めることにもなった。

 国同士の排出量取引は、97年に議定書が採択されたときには評判が良くなかった。削減の義務化を嫌がる国に対し、「カネで解決」の余地を残すという意味合いが強かったからだ。

 だが最近は、排出を効率よく減らす方法として見直されている。

 相手の国がきちんと排出を減らして枠を余らせていれば、余った枠を買うことで、その国の削減努力を応援したことになる。相手の国で削減する方が自国で減らすより安くつく場合、世界全体で見れば効率がいい。

 もっとも、最初から排出枠が余っているような場合には、その取引はカネで解決の逃げ道になってしまう。制度の設計と運用の仕方がカギになる。

 途上国に支援の手を

 自分が優等生になるのはもちろん、友達の勉強も手助けしてクラス全体の成績を上げる。そんな発想がなくては、「今世紀半ばまでに世界の温室効果ガス排出を半減」の目標を達成することはできない。この目標は、去年のG8サミットが真剣に検討すると申し合わせたものだ。

 7月の洞爺湖G8サミットは、いまの京都議定書が12年に終わった後、どんな枠組みで温室効果ガスを減らしていくかの糸口を探る場になる。最大の焦点は、いまは途上国の扱いで義務を負っていない中国やインドなどに排出抑制を促す道を見つけることだ。

 脱温暖化は、先進国が国内の産業や暮らしを再設計し、途上国が温暖化を助長しないようなかたちで経済発展できるようにする大事業である。

 地球規模の視点に立てば、全体の費用は先進国が多めに引き受けなくてはなるまい。途上国へ資金や技術を提供する役回りだ。

 「炭素の夏」を防いで、次の世代に地球を引き継ぐことができるかどうか。今まさに、私たちの世代が試されている。

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