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【産経抄】5月3日
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この連休中、東京の多摩地方は「くらやみ祭」でにぎわうらしい。府中市にある大国魂神社の例大祭で、新緑のケヤキ並木の下を神輿(みこし)や山車が練り歩く。「関東の三大奇祭」のひとつに数えられ、期間中40万人の人出が予想されるという。
▼かつてはクライマックスの神輿の渡御が、町中の灯(あか)りをすべて消した中で行われていた。そのため「くらやみ祭」と呼ばれ、「奇祭」となった。にぎわいのほどは江戸時代から変わらないらしく、司馬遼太郎氏の『燃えよ剣』は、土方歳三がこの奇祭に出かけるところから始まる。
▼小説には辺りの灯が消えると「男も女も古代人にかえって…」とある。つまり、暗闇の中で「自由恋愛」が繰り広げられていたという。といっても、農作業が本格化する前につかの間だけでもハメをはずしてみよう、という程度のものだったのだろう。
▼むろん今はそんな風習はなく、祭りの大部分は明るいうちに行われる。それでも人々が「暗闇」の中に、神聖さとか楽しみとかを見いだしてきた名残をとどめているようだ。そんな暗闇なら結構なのだが、気になるのはネット社会が生み出してきたような現代の「闇」の方である。
▼今、問題となっている硫化水素による自殺の増加もインターネットがきっかけだった。ガスの発生方法を細かく説明した書き込みから広まったのだという。「有害情報」に指定されたものの、誰が書き込んだかわからない。心が凍りつくかのような暗闇の世界だ。
▼学校裏サイトなどネットを使い、匿名で他人を中傷する。「闇討ち」以外の何物でもない。これだけのネット社会になれば決定的な防ぎようはないらしい。せめて明るい「くらやみ祭」がそんな陰湿さを吹き飛ばしてくれるといい。