質問なるほドリ

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質問なるほドリ:チベット問題 なぜ対話が進まないの?=回答・浦松丈二

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 ◆なぜ対話が進まないの?

 ◇「独立」、中国が警戒--再開、五輪のためのポーズか

 なるほドリ ダライ・ラマ14世の代理人2人が中国入りし、広東省深センで4日、中国当局と非公式の協議を始めたようだね。両者の接触はチベット暴動後初めてだけど、これから対話は進むの?

 記者 本格的な対話再開は難しいでしょう。中国はチベット問題の原則的な立場を変えていません。中国政府はダライ・ラマ側の要求は事実上のチベット独立と判断しています。いかなる相手とも独立問題は話し合わないとの立場です。

 国内にはチベットだけでなく、新疆ウイグル自治区などでも分離・独立運動がくすぶり、チベットの独立要求が飛び火することを最も心配するからです。

 Q じゃあ、なぜ会談するの?

 A 北京五輪を成功させるためです。チベット暴動以降、国際社会で中国政府にダライ・ラマとの対話に応じるよう求める声が高まっています。欧州の首脳らによる五輪開会式への欠席表明が相次ぎ、このままでは五輪に悪影響が出ることは避けられない情勢です。そこで、チベット問題での原則を変えず、国際圧力をかわすために会談に応じるポーズを打ち出したとみられます。チベット暴動や聖火リレー妨害で双方の不信感は深まっており、本格的な対話再開のハードルはむしろ高くなっています。

 Q 中国の言い分は?

 A 中国当局は会談に応じる理由を「ダライ側が何度も対話再開を求めてきていることを考慮した」と説明しています。中国政府はダライ・ラマ側とは02年以降、計6回接触しており、今回もその延長線上の接触と位置づけています。

 さらに中国当局は接触から対話再開に移る条件として(1)中国からの分裂活動(2)暴動の画策・扇動(3)北京五輪の妨害・破壊活動--の停止を挙げ、チベット暴動後、条件ではなかった(2)と(3)を追加しました。

 Q ダライ・ラマ側の言い分は?

 A ダライ・ラマは88年以降、チベット独立を求めず、平和的に高度な自治を実現する「中道路線」を歩むことを再三表明しています。中道路線は、旧来のチベット(チベット自治区と周辺の主にチベット族居住地区)で選挙による議会選出と独立した司法機関の設置などを目指しています。

 しかし、急進的な独立を求める亡命チベット人の青年組織などには、穏健な中道路線への不満がくすぶっているのも事実です。中国側が主張する(1)(2)(3)の一つでも認めれば、亡命政府内や亡命チベット人の間で亀裂を生むでしょう。

 中道路線がチベット自治区だけでなく周辺を含めた民族自治や一般選挙、独立司法機関などを要求していることから、中国政府には事実上の独立につながるとの懸念があります。

 Q チベット問題の今後は?

 A 解決に向けて中国政府と交渉できる人物はダライ・ラマしかいないというのが一致した見方です。だが、亡命チベット人の多くはインドを中心に外国に散らばり、亡命2世、3世へ世代が移っています。中国当局が現在72歳のダライ・ラマの没後、チベットを束ねられる人物がいないとみて、北京五輪さえ乗り切れば譲歩する必要はないと判断しても、不思議はありません。チベット問題は、北京五輪を前にした国際世論の高まりと、それを受けた中国側、ダライ・ラマ側双方の信頼構築が解決のカギになりそうです。

毎日新聞 2008年5月5日 東京朝刊

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