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社説 グローバル競争に耐える制度を早く・改革停滞を憂える(5/5)

 皮肉なものだ。道路特定財源を来年度から一般財源にすることになったのは衆参ねじれ現象のたまものだが、同じねじれ国会という理由から多くの経済改革が滞っている。日本はこれから「景気停滞下の物価高」や国際的な企業間競争の激化、それに少子高齢化など困難な問題に立ち向かわねばならない。少なくとも、息の長い成長への基盤づくりや行財政の効率化は待ったなしである。

長期拡大でも地位低下 

 日本経済は2002年から上向いて戦後最長の拡大を記録し、いま踊り場にある。だが回復力は弱く、02年から昨年までの実質成長率は平均1.8%と、ともに2.65%の米英を下回る。1人あたり国内総生産は06年に経済協力開発機構(OECD)加盟30カ国の18位(1993年は3位)に落ち込んだ。

 また世界経済フォーラムの調べによると、国別の競争力は昨年、世界8位(93年は1位)、情報技術分野の競争力では今年、19位(昨年は14位)と、多くの指標が日本経済の地位低下を指し示す。

 その背景にあるのは、日本がぐずぐずしている間に、米国、英国、北欧諸国など多くの国が経済のグローバル化に対応して市場重視の改革を進めてきた事実である。

 ところが日本では「小泉内閣以来の改革の行きすぎが地方経済の疲弊や所得格差を生んだ」などの声がある。その大半は的はずれに思える。例えば公共事業削減で地方経済が悪化したとしても、地方分権や農業改革、官業の民間移管などの改革を進めていれば悪化の度合いは緩やかだったはず。改革の行きすぎではなく不徹底な改革こそが問題だ。

 いま日本経済は米サブプライム問題に端を発した景気減速と、石油・食料を中心とした物価高の二重苦に入りつつある。そこでは財政・金融政策による需要管理は無力だ。需要を喚起すればインフレを加速させ、需要を抑えれば景気をさらに悪化させるからだ。需要管理ではなく供給面を改革し、世界で16位の労働生産性を高めるしかない。

 福田康夫首相は「骨太の方針」に向けて成長戦略の策定を指示するなど表向きは改革に取り組んでいる。だが首相の関心は、中身があいまいな「消費者庁」の創設など国民受けを狙ったものに偏りがちだ。

 いま本当に必要なのは経済の開放と競争を通じて成長を持続させるための改革だろう。

 例えば関税の相互撤廃を軸とする経済連携協定(EPA)は、企業の国際展開に必須だ。現実には、東南アジア諸国と結んだ協定は日本が農産物などの市場開放を渋ったため、相手国の工業品関税引き下げも限定的で双方にメリットが少ない。日本への不信感から協定を守らない国も現れ、タイの鉄鋼関税などに日本の業界は不満を募らせる。今後、オーストラリアや欧州連合(EU)と実効ある協定を結ぶには本格的な市場開放を避けられない。

 そのためにも農業改革は大切だが歩みは遅い。一例だが、株式会社が土地を借りて大規模な農業を営む場合、市町村が仲介する。大抵は耕作放棄地など条件の悪い土地があてがわれる。企業に対する役所の疑念もあるようだが、これでは農業の生産性向上は遠い。世界的な食料不足は対岸の火事ではなく、自給率向上の面からも競争力強化は急務だ。

外国人材にも扉開け 

 また様々な規制改革は生活を便利にするだけでなく成長を促す。自由診療と保険診療を併用する混合診療を認めれば、多様な新療法や医薬品が出現するだろう。羽田空港発着の国際便を増やせば海外の観光客が来やすくなる。保育所の運営に対する役所の関与を減らせば、夜間保育や病児保育にも柔軟に対応できて女性の社会進出を助けるはずだ。

 高度な専門職や日系人などに限っている外国人の受け入れ規制も見直す時期ではないか。人材派遣大手、マンパワー・ジャパンの調査によると日本企業の63%が人材不足を感じており、この割合は世界32カ国・地域でルーマニアに次ぎ2番目に高い。看護師、介護士などを中心に人材の開国を進めることは、経済活性化のためだけでなく高齢化を乗り切るうえでも急がれる。

 企業の税負担軽減も考えるときである。法人課税の実効税率は40.7%(東京都)と、ドイツ(29.8%)や英国(28%)を上回る。社会保険料や租税特別措置も勘案すると欧米より低い業種もあるが、法人税負担の著しく低いアジア諸国との競争も考えれば軽減は当然だ。

 グローバル化の時代には企業が各国と同じ土俵で競えなければ不利になる。その事実を与野党の政治家は厳粛に受け止めるべきである。

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