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社説:胡主席訪日 もやもやした空気晴らせ

 中国の胡錦濤国家主席が6日から国賓として来日する。中国の国家元首が訪日するのは江沢民前主席以来、10年ぶりである。

 小泉純一郎元首相の時代、日中関係は数年間にわたって冷え冷えとした風が吹いた。その後、安倍晋三前首相が修復を図り、温家宝首相、福田康夫首相の相互訪問をへて、最高レベルの首脳訪問が実現する。

 これまでの外交努力の到達点として、また、長期的な「戦略的互恵関係」のスタートとして、胡主席の来日に期待する。

 首脳会談では、なによりも日中間にわだかまっているもやもやとした空気を晴らしてもらいたい。

 いま日中間には激しい対立があるわけではない。東シナ海のガス田をめぐっては外交交渉が続いている。艦隊の訪問も始まった。

 戦略的互恵関係という器に内実を盛る努力が続いている。それだけではない。日中韓の首脳会談という新しい対話も発足する。日中が協調していなければできないことである。

 それにもかかわらず、日中友好という常套(じょうとう)句が空々しく響く空気がある。

 例えば毒ギョーザ事件である。何者かが毒を投入した刑事事件という見解では一致しているのに、どこで毒を入れたかで膠着(こうちゃく)状態になった。犯人が判明するまで事件はいつまでも両国関係のトゲとなる。

 日本人にとって衝撃的だったのは、冷凍食品から百円ショップの雑貨に至るまで中国に大きく依存している暮らしの構造を、思い知らされたからである。

 これまでなにげなく食べていたギョーザが中国製であることを事件によって意識するようになった。ところが安全性についての不安に中国側から納得のいく答えがない。わからないということは不安をさらに高める。その結果、中国製の食品、さらには工業製品までも不安の対象となった。

 日本人の不安が中国人には伝わらず、中国人は過剰反応だと反発している。これでは解決にならない。

 両国間で食品安全を保障するための仕組みを作らなければならないだろう。同時に、両国が誠意を持って捜査を続けているという信頼感が伝わってくるような会談にしてほしい。

 長野の聖火リレー問題も、もやもやした印象を残した。北京五輪のスローガンは「ひとつの世界、ひとつの夢」である。五輪は世界の共有財産だ。しかし中国人留学生を大量動員してチベット支持のデモを封じ込めるやりかたは、聖火を中国の専有物と思っているかのような印象を残した。

 福田首相はダライ・ラマ14世との対話を求めるだろう。それが北京五輪を成功させるためであり、友情ある助言であると胡主席が率直に受け入れられる関係を作れれば、今回の首脳会談は成功である。

毎日新聞 2008年5月5日 東京朝刊

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