◎八田技師の映画 小中高生に団体鑑賞させたい
石川、富山県内の小中高生にぜひ見てほしい映画がある。日本統治時代の台湾で、東洋
一のダムを造った金沢市出身の八田與一技師の長編アニメーション映画「パッテンライ!」である。
今の親の世代は、どこか自信なさげで、目標を見失い、漂流しているかのような印象が
ある。そんな親の背中を子どもたちはどう見て育つのだろう。「こどもの日」のきょう、すべての小中高生を対象に、団体鑑賞の機会を設けることを提言したい。八田技師の生涯を描いた映画に、子どもたちが自分の人生を自分で切り開いていくための多くのヒントが隠されていると思うからである。
八田技師は、台湾の李登輝・元総統が尊敬してやまぬ人物である。戦後、日本人の銅像
がすべて打ち壊された時代に、ダムのほとりに建つ八田技師の像だけは、地元民が決死の思いで運び出し、倉庫に隠したという逸話が残る。来月開設される小松―台湾間の定期便も八田技師の縁が見えざる力になった。
この夏にも公開される映画を通じて、子どもたちに感じてほしいのは、大きな夢、大志
を抱くことの素晴らしさである。八田技師は自ら希望して台湾に赴き、十五万ヘクタールの大地を潤す巨大ダムと、地球を半周する総延長一万六千キロの水路を設計した。さらに「ハード」のみならず、「三年輪作」という独自の農法を立案し、ダムの給水能力の二倍を超える大地に水を送った。地域ごとに初年度は稲作、二、三年目は雑穀やサトウキビをつくるようにして、少ない水をすべての農民が平等に分け合う「ソフト」まで考案した点は特筆されよう。
李元総統は、八田技師について、日本人の美徳である「公に奉ずる」精神を実践した人
物と絶賛し、この精神こそが国際化時代を生きる現代の日本人に欠かせない資質と語る。「公」より「私」を優先させるのが当たり前のようになっている時代だからこそ、八田技師の生き方は私たちの心を打つのである。そんな事実を多くの子どもたち、親たちに知ってほしい。八田技師の大きな背中から、自分が歩むべき道を真摯に考えてほしいと思うのである。
◎胡錦濤主席来日 ガス田合意が試金石に
あす来日する胡錦濤国家主席と福田康夫首相との首脳会談で、期待したいのは、この四
年間にわたってまったく進展のない東シナ海ガス田をめぐる日中協議を大きく進展させることだ。東シナ海には天然ガスなどの資源のみならず、尖閣列島の領有権や台湾問題など、国益や安全保障に直結する難題が山積している。中国が一方的に進めている天然ガス開発で、日本の主権が確保できぬ限り、中国との「戦略的互恵関係」など絵に描いたモチに等しい。
福田首相は政権発足と同時に、日本側のガス田試掘の前提となる漁業補償交渉の開始を
先送りした。安倍内閣の方針を変更したのは、対中関係を重視したからというが、四月中旬に北京で行われた外務次官協議でも日中間の深いミゾは埋まらなかった。おそらく試掘を口にするだけで、実行に移さぬ日本側の及び腰の姿勢を見透かされているのだろう。現段階では、今回の首脳会談で一定の合意が得られる可能性は薄いと見ざるを得ないのではないか。
首脳会談で、福田首相は言うべきことを言い、展望が開けぬようなら試掘の開始を明言
すべきだ。もし胡主席が政治決断し、合意の道が開けるなら、日中関係は新たな段階に入る可能性が出てくる。ガス田開発は、日中関係を占う試金石になろう。
日本政府は東京・上野動物園で飼育されていたジャイアントパンダ「リンリン」の死亡
を受けて、中国側にペアのパンダ貸与を要請する。また、福田首相自身の北京五輪開会式出席も表明するという。パンダや五輪も結構だが、友好ムードの演出に腐心するより、本当の意味での戦略的互恵関係の構築に向け、本音の話し合いをしてほしい。
日本と中国は、東アジアの平和と安定を図る責任がある。中国はさすがに歴史問題を外
交上の争点にするつもりはなかろうが、だからと言って中国に必要以上に遠慮してはならない。チベット弾圧や軍事力増強への懸念をはっきりと伝え、温室効果ガスの排出量削減、大気・水質汚染対策の強化を求めることも忘れないでほしい。