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更新:5月2日 17:00ビジネス:最新ニュース

北京五輪前後の中国経済と日本・宋文洲

 チベット族の人たちやそれを支援する人たちによる聖火リレーの妨害シーンが連日報道される北京五輪ですが、もはや「無事開催」ではなく「有事開催」が既定事実となってしまったようです。

 私は中国人ですが、なるべく公正な立場に立ってチベット族の人たちの立場を理解したいと思っています。ただ、聖火を消す行為自体には賛成は難しいものがあります。「人権」のためなら何をしてもよいという一部の世論は、冷静さに欠けていると思います。

 さて、今日はそのオリンピックの政治化の話をするのではなく、オリンピック前後の中国経済や日本への影響について私見を述べたいと思います。

■予想したとおりの株バブル崩壊

証券会社で株価ボードを見つめる投資家=4月18日〔AP Photo〕

 上海株式指数は2006年初めの1200ポイント弱から急上昇し、1年10カ月の間に5倍の6000ポイント強になりました。その間、都市部の不動産価格はそれ以上の急騰となりました。

 高度成長期においては、インフレに伴う資産価値の上昇はどこの国でもよく見られる現象です。しかし、中国のここ2、3年間の経済過熱は間違いなく北京五輪の影響を受けて、異常な領域に突入していると思います。建設ラッシュのため、まず鉄鋼の値段が上がりました。その後、エネルギー資源の価格が急騰し、穀物などにも影響を与えました。

 07年3月以降だと思いますが、北京や上海の証券会社や銀行の店頭には朝から行列ができていました。株を購入する口座開設のためでした。その行列には家事手伝いや年金生活者のような決して富裕ではない人も多く、バブル期の現象を呈していました。

 私は多くの知人や友人にバブルの危険を説き、中国の株式市場からしばらく離れるようにアドバイスしましたが、上がり続ける市場を前に私は狼少年になっていました。

 そのときに最も多くあった反論は「オリンピックの前に株式市場が崩壊するはずがない」でした。つまり、政府が威信をかけて成功させたいオリンピックがあるから、そのオリンピック開催の前には株価の暴落はないという理屈です。

 私はこのような思い込みこそが危険だと思いました。皆が同じことを考えることはむしろ最もリスキーなことだと思いました。このことを07年5月25日の私のメールマガジン72号で「中国の株バブルが問題になる」と題して書きましたが(http://www.softbrain.co.jp/mailmaga/back72.html)、結局そのとおりの展開となりました。上海の株式指数は07年10月をピークに今年4月下旬に半分まで急落したのです。

■中国経済の崩壊はない

 では中国経済は悪化したのかというと、先日発表された08年第1四半期の企業収益力を見ると、確かに前年同期よりも鈍化したものの、依然として大きな伸びを達成しました。GDPの成長も10%以上ですし、株式のバブルが崩壊しても実態経済への影響はなさそうです。

 中国に反感を抱く一部の方々からよく「いったいいつになれば中国経済が崩壊するのか」との質問をいただきますが、私はいつも答えに窮してしまいます。楽観的な見通しを語ると「母国への愛着」で客観性を欠いていると思われるからです。

 実を言うと、私は中国経済がどうなるか分からないのが本音です。しかし、一つだけ自信を持っていえることがあります。それは中国経済の崩壊はないということです。それは日本の経済に崩壊がないのと同じ理屈です。

 日本もバブルが崩壊し長い間、低成長に苦しんできましたが、それでも社会は進化し、10年前よりも今の日本はずっと住みやすくなり、経済の質も良くなってきたと思います。日本の人々が不満に思っているのは日本の回復のスピードが他国より遅いということです。

 「中国の崩壊」や「中国経済の崩壊」はあくまでも中国の復興に対して複雑な気持ちを持つ方々の期待の言葉であり、緻密な調査と冷静な判断に基づくものではありません。

 確かに「格差問題」「腐敗の撲滅」「国営企業の改革」「業界の再編」など、どれを見ても重い課題ばかりです。しかし、30年前に改革開放を始めた時の課題はこれよりはるかに多くはるかに重いものでした。

 一国の成長は1つ、2つの課題の解決によってもたらされるものではなく、外部環境と内部条件の成熟によってもたらされます。さらにこのような環境と条件の成熟は人為的な努力もありますが、季節のように歴史の中で循環されているケースが多いのです。いったんそのような循環に入った場合、局部の具体的問題によってその循環が中断することは難しいのです。

■中国の成長は日本にプラス

 中国経済の今後は、目先の現象を見てもわかりません。100年単位で考察すれば結論は明らかです。中国は100年単位の復興が始まったのです。過去の100年単位の廃頽(はいたい)と同じように。

 北京五輪は中国の人々を含む多くの人々から経済の転換期として見られているようです。それには一理がありますが、オリンピックは基本的にスポーツのイベントに過ぎません。気分が高揚しても実態は変わりません。

 オリンピック後の1、2年においては中国経済の成長スピードは鈍化するかもしれません。これは中国政府が目指してきたことでもあります。しかし3年、5年のスパンで見る場合、中国経済の平均成長は間違いなく世界の中で最も高いほうに属するに違いありません。

 米国を超えて日本の最大貿易相手になった中国の経済ですが、健全なほうが日本にとってもいいに決まっています。言い換えれば中国経済が健全性を保っていれば日本の経済もその分プラスになるのです。

 日中は経済において競合関係にないことは一目瞭然です。日本政府が政策に掲げた「戦略的互恵関係」は日本の国益に沿った冷静な判断であり、本音だと思います。中国経済の崩壊を予測する人は、ビジネスの世界にはめったにいません。いるとしても重要な決断を求められる責任のある方ではないはずです。

[2008年5月2日]

-筆者紹介-

宋 文洲(そう ぶんしゅう)

ソフトブレーン マネージメントアドバイザー

略歴

 1963年中国山東省生まれ。85年に北海道大学大学院に国費留学。天安門事件で帰国を断念し、札幌の会社に就職するが、すぐに倒産。学生時代に開発した土木解析ソフトの販売を始め、92年28歳の時にソフトブレーンを創業。98年に営業など非製造部門の効率改善のためのソフト開発とコンサルティング事業を始めた。00年12月に東証マザーズに上場。成人後に来日した外国人が創業した企業が上場するのは、初のケースとなった。05年6月東証1部上場。06年9月会長を退任し現職に。著書には「やっぱり変だよ日本の営業」「ここが変だよ日本の管理職」などがある。

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