緊急リポート:「国立」病院廃止の深層
〜(前編)縮小する「政策医療」
約70年の歴史を持つ横浜市の南横浜病院が、今年12月でその歴史に幕を閉じようとしている。独立行政法人国立病院機構が4月、同病院の廃止を決めたからだ。2004年に全国の国立病院・療養所が同機構に移行してから、赤字を理由に病院が廃止されるのは今回が初めて。結核医療の拠点となってきた同病院が廃止されると、神奈川県内の結核医療の基準病床が不足する。加えて、新型インフルエンザへの対策が急がれる中、同病院は感染症の病原体を院外に拡散させない「陰圧病床」を有している。このため、同病院の廃止による影響を懸念する声が少なくない。(山田利和・新井裕充)
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■経営効率優先の医療
「経営改善計画(再生プラン)の達成不能な病院として、貴院を廃止することとした」−。このような通知が4月8日、同機構から南横浜病院長に届いた。知らせはすぐに院内に広がり、職員や入院患者らに正式に廃止が伝えられた。
「病棟の縮小や赤字経営の問題で、ある程度は予想していたが、本当に残念」。同病院に28年間勤務し、あと4年で定年を迎える看護師はこう嘆いた。
独立採算制の同機構では、経営効率を優先した病院運営を展開。過去の債務が返済できない、または単独で運営費を確保できない状況にあるなど、早急な経営改善が必要な病院に対して、病床規模や人員配置などを見直し、収入増とコスト減を図る「再生プラン」を策定するよう求めている。南横浜病院は3月に同プランを提出。しかし、「経営改善を行うとしても収支改善の見通しが立たず、約22億円の債務も返済できない状況にある」として、同機構が「達成不能」と判断し、廃止を決めた。
同病院は、戦前の1937年に神奈川県立結核療養所として開院。結核医療のパイオニア的存在で、結核をはじめとする呼吸器疾患の治療や地域医療で中心的な役割を担ってきた。同機構に移行した2004年には、結核病床147床と一般病床138床の6病棟285床で運営。その後、結核患者に加え、一般医療の患者も減少する中、経営改善の一環として同機構が病棟を集約し、毎年1病棟ずつ閉鎖してきた。これにより、05年に5病棟、06年に4病棟、07年に3病棟、今年3月には結核病床49床と一般病床42床の2病棟91床にまで縮小していた。
こうした経緯について、同機構の職員で構成する全日本国立医療労働組合(全医労)南横浜支部の役員は、「病棟の閉鎖によって収入が激減し、赤字が増えていたにもかかわらず、耐震工事やボイラーの設備更新などを行って支出を増やしたことで、経営状態が急激に悪化した」と指摘。「多額の債務といっても、多くは04年以降に累積したもので、意図的につくられた赤字、計画的に偽装した『倒産』というほかない」と、同機構を厳しく批判している。
■切られる不採算医療
結核は、1950年ごろまで年間死亡者が十数万人に上り、日本人の死亡原因の第一位だった。このため、国を挙げて取り組まなければならない疾病を対象とする医療(政策医療)に位置付けられ、これを国立病院が担ってきた歴史がある。国立病院が2004年に独立行政法人国立病院機構に移行してからは、同機構の54結核病院(南横浜病院を含む)が受け継いできた。政策医療は民間の医療機関では取り組みにくい「不採算医療」が多く、結核医療も不採算部門となっている。
神奈川県内の結核医療について、同機構は「県単位で神奈川病院(秦野市)に効率的に集約する」との方針を表明。しかし、同支部では「日本の結核罹患(りかん)率は諸外国と比べ依然として高い。強力な耐性菌の出現とともに、都市部の若年層の間で新たな広がりを見せている中、県都市部における結核など呼吸器疾患の治療に基幹的な役割を果たしてきた南横浜病院の廃止は深刻な影響を及ぼす」と警告している。
結核などの政策医療が不採算医療として、効率優先の流れの中で縮小していくことに対し、ある関係者は危機感を強めている。
「赤字という理由だけで同機構の病院が廃止されるのなら、他の病院にも採算の取れないところから計画的な廃止や政策医療からの撤退の動きが波及するだろう。南横浜病院は、始まりにすぎない」
(続く)
更新:2008/05/05 00:09 キャリアブレイン
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08/01/25配信
高次脳機能障害に向き合う 医師・ノンフィクションライター山田規畝子
医師の山田規畝子さんは、脳卒中に伴う高次脳機能障害により外科医としての道を絶たれました。しかし医師として[自分にしかできない仕事]も見えてきたようです。