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【主張】胡錦濤主席訪日 微笑で不信解消できぬ 真に意味ある首脳会談願う
中国の胡錦濤国家主席が6日、来日する。1998年の江沢民前主席以来10年ぶりの中国トップの訪日である。胡氏が今春、主席に再選された後、初の外遊先に日本を選んだことは、対日重視姿勢の表れとされる。真に意味ある訪日にしてほしい。
日中関係は、小泉純一郎元首相時代に冷え込んだが、2006年10月の安倍晋三前首相の「氷を割る」訪中後、温家宝、福田康夫両首相が相互訪問し、首脳交流が復活、戦略的互恵関係の構築で合意している。
胡主席は、訪日に先立ち中曽根康弘元首相に「戦略的互恵関係を発展させたい」と抱負を述べた。7日の福田首相との首脳会談では、さまざまな分野での交流と協力拡大で合意する見通しだが、それだけでは十分ではない。
年初の冷凍ギョーザ事件、3月中旬以降のチベット騒乱と五輪聖火リレーでの中国政府の対応に日本国民には強い不信がある。特に最近の愛国主義の高揚は、西側社会の反発を招き、北京五輪開催への疑問さえ広がっている。こうした中での胡氏の訪日には、内外の厳しい目が注がれていることを忘れてはならない。
◆日本取り込みが狙い
中国は今年、改革・開放に転じて30周年を迎えた。この間の経済発展は目覚ましく、国内総生産(GDP)は年内にドイツを抜いて世界3位になり、数年内に日本に並ぶと予測されている。軍事力増強も著しく、国防費は公表分だけで日本を超えた。
中国の経済建設に最大の貢献をしてきたのは日本である。改革・開放開始直後に政府開発援助(ODA)の供与を開始し、対中投資や技術協力でも西側をリードしてきた。この30年間に日中貿易額は40倍超に、過去10年間も中国の成長率を超える伸びになった。中国の成長路線は日本企業に利益をもたらしはした。
中国はいま、格差の拡大や環境破壊など国内矛盾の激化を招いた成長主義から調和の取れた発展へ転換を図ろうとしている。胡主席の科学的発展観がそれだが、注目すべきはそれと同時に対日重視策が打ち出されたことだ。
両国が合意した戦略的互恵関係は、単に環境保全や省エネなど中国が必要とする技術協力だけではない。中国側には台湾問題や東アジア支配戦略に日本を取り込む狙いがあるといわれる。
中国の軍事関係筋によると、中国の戦略部門は、中短期的には台湾問題、長期的には世界規模の戦略で米中対決は不可避と分析し、日本との提携強化が有利とみているという。将来的には日米同盟に影響しかねず、中国の意図を見極めねばならない。
◆首相出席を世論どうみる
そうした文脈から、日中の最大懸案である東シナ海ガス田問題の難航も当然である。中国の海洋戦略がかかっているためだ。昨年12月の福田、温家宝両首相会談では「両国関係の発展過程でできるだけ早く解決する」ことを確認したが、今回の首脳会談でも解決は持ち越しになる見込みだ。
3年前、反日デモの嵐を呼んだ日本の国連常任理事国入りにも中国側は消極姿勢を変えていない。北朝鮮の核問題では、6カ国協議の枠内で協力しているものの、拉致問題では、日朝2国間の問題と冷淡な立場である。
胡主席が首脳会談でこれらの問題について劇的な提案をするのはほとんど望めない。中国の国家利益や対外戦略が絡む問題で譲歩はできないし、愛国主義が高まる現状ではなおさらだ。
胡主席は5日間の訪問中、福田首相らとの卓球など各地で微笑外交を展開する予定だ。しかし、それによって日本国民の対中不信を解消することも国際世論の反発を緩和することも難しいだろう。
国際世論の圧力を受け、中国はチベット亡命政府の特使を招き、「対話」を始める。胡主席の訪日と、続く主要国首脳会議(洞爺湖サミット)、北京五輪を意識、ダライ・ラマへの非難攻撃から柔軟姿勢に転じたものといえる。
対話が国際世論懐柔のための形だけに終わるなら、対中不信を深めるだけだ。福田首相は胡主席に、対話に真剣に取り組み、チベット問題の平和的解決と人権状況の改善努力を促し、国際協調の必要を説得すべきである。さもなければ首相の五輪開会式出席は世論の支持を得られない。