プロへの登竜門、編集者の目が光る
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今年からショートストーリー漫画に絞って募集した「第18回黒潮マンガ大賞」には、全国27都道府県から91点の作品が寄せられた。審査に当たったのは、昨年に引き続き本県出身の漫画家、西原理恵子、くさか里樹の両氏と、新たに小学館の八巻和弘・ビッグコミックスペリオール副編集長。これまでの「作家の目」からの評価に加えて、「編集者の目」が入ったことで、プロ漫画家への登竜門として、同賞の役割もより高まったといえる。選考過程を紹介する。
応募作品は、事前に審査員の3氏に送られ、5点満点で採点してもらった。その後、高知市で開かれた審査会では、合計点の上位と、各氏が特に推す作品合わせて23点が入賞、入選を選ぶ俎上(そじょう)に上がった。
まず、西原氏が賞候補として強く推したのが今井悠太さん(21)=高知市朝倉己=の「りんごの肉」だった。
西原氏は「まだ若いし可能性を感じる。この貧乏な感じが、とてもリアルですよ。出てくるせりふなんか、本当に経験してないと書けるもんじゃないと思う。まあ、こうした貧しさは高知では当たり前のことで、東の人なんかには分からない」。
八巻氏は「うーん、ガロっぽいですね。これは雑誌に掲載しても、なかなか人気という点では難しいかも。デビューさせてからが大変ですね」。
くさか氏は「なんか設定がありきたりのように感じましたけど」。
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そうした議論の末、各氏とも「大賞」として推せる作品がないことを確認。「りんごの肉」を強く推薦する西原氏に、くさか、八巻の両氏も理解を示して、予定していなかった「西原理恵子特別賞」を設けることになった。
その後、事前の採点でトップだった野村宗弘さん(31)=広島市安佐南区=の「ケーブルニヤリ」を、そのまま「準大賞」にすることが、すんなりと決まった。
くさか氏は「ありとあらゆるアングルを試しているのが面白い。オチも効いている。これだけの画力があれば、相当いろんなものが描けるんじゃないでしょうか。ほかの作品も見てみたい」と絶賛。
八巻氏も「これぐらいのクオリティーがあれば、漫画雑誌に掲載できる可能性もあるんじゃないかな」と評価した。
入選作で話題になったのは10歳の小学4年生、森下央君の「少年刑事」。
「うちの子と年があまり変わらないけど、とてもこんなふうに描けない。これが自分の子だったら、うれしい」(西原氏)。
そのほか、入選作では海老沢扇子さんの「モヘア」、稜子さんの「かさ」を、くさか氏が特に推した。 一圓周平さんの「お笑い★ハムスター」については、「楽しんで読んだ」(西原氏)、「これも雑誌に発表できる質はあると思う」(八巻氏)と評価された。
また小学館などのコミック雑誌に掲載する機会を与える「編集者特別賞」については、準大賞の「ケーブルニヤリ」を対象として検討することになった。
【写真説明】全国から寄せられたショートストーリー漫画の力作を審査した左から八巻、西原、くさかの各氏(高知市鷹匠町1丁目)
審査員から
西原理恵子氏 悲惨さ笑い飛ばせ
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特別賞が認められてよかった。「りんごの肉」の貧乏な雰囲気は、私の感覚と共通するようなものがある。絵も個性的だし、このせりふは体験した人じゃないと書けないと思う。このノリで、悲惨さを最後に笑い飛ばせばいい。この賞の審査をやっていて、今までで一番好きな作品だった。
私とくさかさんが審査しているので、行儀の良い作品が落とされているような気がする。くさかさんは案外、下ネタが好きだし(笑)。私は貧乏系。そこらあたりを絡めて、もっと際物的な作品がくれば、大賞になるんじゃないかな。
荒唐無稽(むけい)な「魔法」が出てくるような漫画がほとんどなかったのは、そんなのにみんなへきえきしてるからだろう。子どもも、だまされなくなっている。
コマ部門がなくなったことは、仕方ない。商業的にこの分野が成り立っていないので、お金の流れるストーリーに向かうのはしょうがない。
くさか里樹氏 絵の荒さ目立った
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全体的に絵の粗さが目立って、商品として仕上がってない作品が多かった。もっと丁寧に絵を描いてほしい。
プロの漫画家としてやっていくには、魅力あるキャラクターを創造し、それを生かしていく力がないといけない。応募作だけで完結するのではなく、シリーズにもできるようなキャラクターが欲しい。
今回は「魔法」を使った作品がほとんどなかった。ラブストーリーも少なく、去年あったシュールなものもなかった。
「ケーブルニヤリ」は面白い。ケーブルを引くという職人の世界を上手に見せてもらった。いろんなアングルがあって、せりふがなく、最後に登場人物2人がニヤリとするのが効いている。去年の大賞作品とは対照的な手法のものだろう。
今回残念なのは、個人的に「これが好き!」という作品に出合えなかったことだ。想像を超えた発想による作品を待ちたい。
八巻和弘氏 漫画で食べる気を
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事前に想像していたよりも面白かった。もっと駄目かなと思っていたけど、新聞社の漫画賞という価値を見直した。 ただ僕の立場は、コミック雑誌で連載できるかどうかという目線。本当に連載を取って、この漫画で食べていくという意志を感じる作品は少なかった。
小学館の賞に応募してくるのは、もっとずっと若い層。こんなふうに30から50代、さらに70代までの人からの応募は少ない。われわれはどうしても将来を考えて若い人に注目するが、個人的には、これからは人生経験を積んだ30、40代の人の作品に注目していきたい。
若い人の作品にも良いものはあったが、すぐ雑誌に掲載できるわけじゃない。ただ、これから連絡して、編集者を付けて育てていきたいような才能もあった。
準大賞「ケーブルニヤリ」は最も完成されている作品。でも、ここで終わってほしくない。