核廃絶の願いを込め福山市内の公園で育てられていた被爆アオギリの二世、三世合わせて十数本が四月下旬、何者かによって引き抜かれたり、折られたりした。心ない行為に胸が痛む。
植えていたのは市民団体「被爆アオギリの会」。広島の爆心地近くで被爆したアオギリの種から育てた苗木を二〇〇六年三月に植樹した二世と、被害に遭う十日ほど前に植えたばかりの三世。いずれも希望者に贈るために育てていた。現場は数百メートル離れた別々の花壇で、被爆アオギリだけがなぜ狙われたのか。同会の代表は「こんなひどいことをする、その心が悲しい」と落胆していた。
被爆アオギリを知ったのは福山に赴任してから。熱線と爆風で幹を大きくえぐられたが、翌年には若々しい芽を吹き、たくましい生命力が人々を勇気づけたという。被爆アオギリは、廃虚から復興した、ヒロシマ再生のシンボル。その種から大切に育てられた苗木が各地に配られている。
福山には「アンネのバラ」がある。ナチスのホロコーストで犠牲になったアンネをしのび、ベルギーの園芸家が新種に命名。アンネの父から苗木を贈られた福山市御幸町中津原のホロコースト記念館で、市民らも協力して栽培され、学校などに贈られている。
いずれも植物を育てることを通して戦争を憎み、平和を願う尊い活動だ。被爆アオギリを無残な姿にした者のように、いつの世にも、どこにでも無道者はいる。そんなことにくじけず、平和や命を愛する心をはぐくむ、その取り組みの輪をもっと広げていきたい。
(福山支社・鳥越聖寿)