チベット仏教最高指導者ダライ・ラマ14世の特使2人が3日、中国政府との非公式協議のため、中国入りした。中国側には、チベット問題への強硬姿勢を一時「封印」し、柔軟姿勢を世界にアピールする狙いがあるとみられ、亡命チベット人は警戒心を隠さない。
【北京・浦松丈二】中国政府が、チベット仏教最高指導者ダライ・ラマ14世の代理人2人の訪中を受け入れたのは、6日に始まる胡錦濤国家主席の訪日を前に、国際社会に向けてチベット問題での対話姿勢をアピールする狙いからだ。
中国政府は、3月のチベット暴動の鎮圧をきっかけに欧米社会から人権批判にさらされている。民主化を求める学生らを武力鎮圧した天安門事件(89年)でも中国は国際的に孤立したが、人権批判に及び腰だった日本との関係改善を進め、孤立回避の突破口にした経緯がある。
胡主席は4月16日の与党幹事長訪中団との会談で、ダライ・ラマ側との「交渉の窓口は常に開いている」と強調。中国政府は北京五輪の聖火リレーが長野で行われる前日に「ダライ・ラマの代理人と会談する用意がある」と発表もしていた。
胡主席は4日に北京で訪日前の日本メディアとの会見に臨む予定で、胡主席自らチベット問題でメッセージを出す方針とみられる。
【ニューデリー栗田慎一】中国政府とチベット仏教最高指導者ダライ・ラマ14世側の非公式協議について、亡命チベット政府を受け入れているインドでは、中国への抗議デモを続けてきたチベット人の間から「協議は大きな一歩」と評価する声が上がる一方、「北京五輪を円滑に進めるための単なるポーズではないか」との警戒感も根強い。
最大のチベット人NGO(非政府組織)で、中国政府から中国チベット自治区の「暴動を首謀した」と非難された「チベット青年会議」のシバン・リグジン議長は、「中国は信じられない」としたうえで、「協議がチベット自治区での中国の暴力をとめる第一歩であることは間違いない」と評価。「何が変わるか、それが重要だ」と指摘した。
亡命チベット人組織の中でも穏健派として知られる「チベット連帯委員会」のワンチュー議長も「(協議は)中国の演技に過ぎない」と懐疑的だ。「北京五輪を円滑に進める口実を得る目的だろう。それでも、我々は希望を捨てることはできない」と述べ、対話の継続に望みをつないだ。
毎日新聞 2008年5月3日 21時57分