【埼玉】「本当に着るんですか?」と職員が驚く中、いそいそと紫色のジャージーを羽織ってくれた。左胸には東京・秋葉原のオタク文化の総称「アキバ系」の刺しゅう文字。鷲宮町は美水かがみさんの人気4コマ漫画「らき☆すた」アニメ版のモデルとなり、ファンの間で一気に知名度を上げた。商工会が企画した、アニメに登場する実在の場所での町おこしイベントには、全国から3500人の熱烈なファンが詰めかけ、大成功を収めた。
絶好の観光資源として「らき☆すた」に目をつけたのは商工会の若手職員。普段から繰り返していた「失敗を恐れずにやれ、私が責任を取るから」という言葉通り、若手が提案したイベントに一発OKを出した。ただ、「漫画やアニメは特殊な人の特殊な趣味の分野。うちの職員もたぶんオタクだな」とひそかに思っていた。
昨年12月に初のイベントを開催すると、集ったファンの紳士的な態度や純粋さに意外な一面を見た思いがした。「商工会職員のつたない進行にも調子を合わせ、イベントを盛り上げてくれた」。商店会はファンに好感を持ち、トイレに加えコスプレ(仮装)に着替える部屋も貸し出し、お茶を出した。ファンと商店会の交流を目のあたりにし、「好青年ばかり。最高でした」と振り返る。
「公共団体の職員はね、能力も意欲もあるのに変わったことをやるのが苦手。もっと伸び伸び能力を発揮してほしい」。この会長がいてこそ、職員の発想が花開いたのだろう。イベントはまだまだ続く。「7月7日はらき☆すたの登場人物の誕生日。次は何やるんですかってファンにせかされるんだよ」。困ったような口ぶりとは裏腹に、顔は笑顔だった。【稲田佳代】
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■人物略歴
鷲宮町在住。67歳。大宮工業高を卒業し、会社員を経て家業の非鉄金属加工工場を継いだ。02年5月から現職。漫画「らき☆すた」は「読んでいない。ファンが好きならそれでいい」と笑う。
2008年5月1日