携帯型ゲーム機を活用し、聴覚障害者に手軽に字幕を読んでもらう取り組みが東京都内の学校などで進んでいる。「周りを気にしないから気が楽」「手元で読めるし、持ち運びも簡単」と好評だ。健聴者と比べて情報格差が指摘される中、身近な“情報保障”の手段として期待されている。
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考案したのは、都内で手話通訳をする宮下あけみさん。「朝礼や演劇で手軽に字幕を読む方法はないか」。そう数年前から考えていた宮下さんは、多くの子どもが持つ携帯ゲーム機に着目。話した内容を要約して文字で伝える要約筆記通訳者で、リアルタイムでパソコン入力した文字をブラウザー(ウェブページ閲覧ソフト)で読み取るソフト「IPtalk broadcaster」を開発した森直之さん(27)=静岡県裾野市=に相談した。
試行錯誤の結果、ソニー・コンピュータエンタテインメントの「プレイステーション・ポータブル(PSP)」で実験に成功。PSPは、ケーブルをつながずに電波で文字や音声、画像データをやり取りする無線LAN(域内情報通信網)を内蔵し、ブラウザーも標準装備しており、字幕表示に適していた。任天堂の「ニンテンドーDS」は付属品が必要なことなどから、「誰でも気軽に使える」という点で、PSPが最も実用的という。
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教育現場では既に実践されている。聴覚障害の生徒2人が通う東京都台東区立柏葉中では以前、朝礼や全校集会の際、生徒は立ったままノートパソコン(B6サイズ)を抱え、無線LANで画面に流れる要約筆記を読んでいたが、昨年12月から、学校側が購入したPSPを生徒に貸与。「軽いし、熱を持たない」と好評なうえ、パソコンに比べて割安で、難聴学級の担当教諭は「ソフトや記憶媒体がなければ、ゲームとしては遊べず、抵抗感も薄い」と説明する。
従来は聴覚障害者が参加する講演会などの会場では、パソコンと接続したスクリーンを設置し、文字を打ち出してきたが、「broadcaster」を備えた携帯ゲーム機なら手元で文字を読むことが可能。一度表示した文字を読み返すこともでき、聴覚障害者が少ない会場でも要約筆記を受け入れやすいメリットが見込まれる。
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「IPtalk broadcaster」は森さんのホームページ(http://www2.wbs.ne.jp/~condle)で、無料でパソコンにダウンロード可能。PSPによる要約筆記のマニュアルも公開している。
発売元のソ社は「こういう活用法があるとは想定外。読みやすい文字の表示方法など開発段階でできることがあれば取り入れ、サポートしたい」と協力する姿勢だ。
宮下さんは「演劇や映画館など字幕のない公衆の場はもちろん、結婚式などでも周りを意識せずに見ることができるので、多くの場で活用してほしい」と話している。【蒔田備憲】
2008年5月1日