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新型インフル対策 流行前にワクチン接種 優先順位どう決める? |
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新型インフルエンザ対策で、重要な役割を果たす国立感染症研究所を視察する舛添厚労相=4月16日、東京都新宿区 |
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発生すれば国内で約六十四万人の死者も想定される新型インフルエンザ。その対策で厚生労働省は、従来の方針を転換し、国が備蓄するワクチンの流行前接種に踏み切ることを決めた。まず約六千人が対象だがその後の拡大も検討している。「希望者全員に接種を」と求める声も出始めているが、限られたワクチンをどんな優先順位で打つのかなど、重要問題をめぐる実質的な議論は手付かずの状態で、混乱を懸念する声も出ている。
「実行されれば世界で初めての対応になる」。四月十五日の閣議後記者会見で計画を発表した舛添要一厚労相は力を込めた。
●時間稼ぎ
備蓄ワクチンは、アジアなどにまん延し新型への変異が懸念されている鳥インフルエンザウイルス(H5N1型)から製造。「パンデミック」と呼ばれる世界的大流行の前に作るため「プレパンデミック(大流行前)ワクチン」という。
国はこれまでに約二千万人分を原液の状態で備蓄。当初は、新型が発生したら医療従事者らに接種し、新型ウイルスに効果があるワクチンが製造されるまでの「時間稼ぎ」に使う計画だった。だが原液を接種可能な製剤にするのに時間がかかる上、アジアで鳥インフルエンザは深刻化する一方。「発生後では間に合わない」と、流行前の接種計画が浮上した。
●期限目前
新計画によると、最初の接種対象となる約六千人は、空港などの検疫所職員や感染症指定医療機関の医師ら、新型が発生したら感染の危険が大きい「最前線」の人たち。
希望者を募る臨床研究の形で本年度中に接種を始め、安全性・有効性が確認できれば、来年度から他の医療従事者や警察、ライフライン関係者ら「社会機能の維持に欠かせない」約一千万人への接種を検討する。
さらにその接種で高水準の安全性が確認されたら、一般国民への接種拡大も視野に入れるとした。厚労省はこのほか、子ども向けの用量を確認する臨床試験(対象百二十人)にも乗り出す。
この備蓄ワクチンが実際の新型ウイルスに効くかは未知数だが、基礎的な免疫をつけるには一定の効果が期待される。また有効期間は三年しかなく、早く製造した分は来年度が期限で、使わなければ廃棄せざるを得ないとの事情も背景にある。
●国民の合意
備蓄ワクチンの接種を求める声は高まりつつある。三月には与党国会議員有志が「希望する国民全員に事前接種を」と求める緊急要望書を舛添厚労相に提出。東京都議会も同様の意見書を可決した。舛添氏も「希望する人がいれば増やすことを十分考えたい」と前向きだが、接種には未解決の問題も多い。
厚労省の新型対策指針は「社会機能維持者」として警官や消防士、国会・地方議員、ライフラインや報道の関係者などと職種は示しているが、具体的な範囲や優先順位などは決まっておらず、実質的な議論もほとんど進んでいない。
仮に対象をさらに広げるとなれば「誰に打つか」という優先順位の決定は、いっそう困難となりそうだ。
国立感染症研究所の田代真人部長は「接種範囲を大幅に広げれば、重篤な副作用が新たに見つかるかもしれない」と、まず安全面から、拡大には慎重な手順が必要だと指摘。その上で接種に優先順位をつけることについて「ワクチン製造能力が限られる中、社会全体の機能を維持し国民の健康、安全の確保には合理的な方法だと国民にきちんと説明し、理解と合意を得るべきだ。そうでないとパニックになる」と、開かれた議論の必要性を訴えている。
(熊本日日新聞2008年5月3日付朝刊)
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