旧東京三菱銀行と旧UFJ銀行が合併した三菱東京UFJ銀行で最大の懸案となってきたコンピューターシステムの完全統合作業が5月10日から始まる。完了すると旧行ごとに異なっているATM(現金自動受払機)の稼働時間がそろうなど、「大きな顧客メリットがある」(同行)という。ただ、4000万口座、1日1億件の取引を扱う世界最大の銀行システムだけに、トラブルは許されない。年末の統合完了まで緊張の作業が続く。【斉藤望、大場伸也】
★6000人動員
3連休初日の今年2月10日朝。三菱東京UFJ銀行は全国約670支店すべてのATMを休止し、新システム初の全店リハーサルを始めた。全行員の半分近い約1万8000人が出勤し、ATMや窓口の端末を新システムに接続。現金の引き出しや送金依頼を繰り返す。夕方までの作業は大きなトラブルもなく終わり、東京・丸の内の本店に集まった幹部から拍手が沸いた。
昨年夏のピーク時で、国内のシステム技術者の2割に当たる約6000人を動員、総費用約4000億円をかけた「日本最大のシステム開発プロジェクト」。総仕上げの店舗システムの切り替えは、まず、旧東京三菱の250店で5月12日に実施される。旧UFJの420店は7月から5回に分けて作業し、12月15日以降、全店で新システムが稼働する予定だ。
★行内にしこりも
三菱東京UFJ銀は現在、旧2行のシステムを並行利用している。そのため、旧UFJのATMが24時間稼働なのに、旧東京三菱は最大午前7時~午後11時までだったり、時間外利用の際の手数料優遇の基準が異なるなど、「看板は同じでもサービスはばらばら」という状態が続いている。両システムごとの保守管理が必要で、コスト削減効果も十分出せていなかった。
新システム統合後は全店のATMが24時間稼働となり、手数料優遇基準も統一される。さらに09年度は2200億円のコスト削減を見込んでおり、畔柳信雄会長は「反転攻勢の展望が開ける」と強調する。
ただ、新システムが旧東京三菱のシステムを土台に開発されたことに対し「早くから個人客を重視してきた旧UFJのシステムの方が圧倒的に利便性が高かった」との不満は根強く、行内にしこりを残している。
★「天命を待つ」
「思いがけないトラブルが発生した場合は作業を中止して元のシステムに戻す」「緊急時の役員連絡網作成と対策本部の設置」--。三菱東京UFJ銀は統合作業で障害が起きた場合の対応をこと細かに決めてきた。
02年4月に旧富士、旧第一勧業、旧日本興業の3行が統合したみずほ銀とみずほコーポレート銀では初日から大規模なシステム障害が発生。250万件の口座振替の遅れや未処理が起こった。
みずほの失敗は旧3行の勢力争いのあおりで、システム統合準備が不十分だったことが背景とされる。三菱東京UFJ銀は統合完了を当初予定の07年末から1年延期し、トラブルを最小限に抑えるための段階的な統合作業を進めている。永易克典頭取は「やれることはすべてやった。あとは天命を待つしかない」と話す。
統合の最大の山場は旧東京三菱を土台にした新システムに旧UFJの店舗が移行を始める7月。「昭和30年代から継ぎはぎで巨大化した銀行システムの統合時のトラブルをゼロにするのは困難」(内田勝也・情報セキュリティ大学院大教授)なだけに、経営陣、取引先はかたずをのんで統合の成否を見守らざるを得ない。
開発に参加してきた情報システム会社「ニイウスコー」が巨額粉飾決算の疑いを持たれた上、民事再生法の適用を申請したことも懸念材料。三菱東京UFJ銀は「システム開発は終わっており影響はない」と説明するが、ニイウスコー社員は同行に出向してシステム維持作業に携わっており、影響が出る恐れもある。
毎日新聞 2008年5月2日 21時59分(最終更新 5月2日 23時31分)