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2008年5月3日

◎白鳥から鳥インフルエンザ 飛来コースの石川県も要警戒

 秋田県の十和田湖畔で見つかった白鳥の死骸(しがい)から二〇〇三年後半から世界で 広く流行している強毒性の鳥インフルエンザウイルスH5N1型が検出されたのに続き、北海道東部の海岸で死んでいた白鳥からも同じ可能性を示唆する反応が確認された。渡り鳥は感染を広げる役割をするといわれているが、その渡り鳥からのH5N1型の発見は日本で初めてだ。

 北の繁殖地へ帰っていくシーズンだったため、十和田湖以南でカモなどの水鳥から感染 した可能性がある。石川県や富山県には白鳥などの渡り鳥が飛来したり、さらに南へ行くコースの中継点となったりする池や湖沼がいくつかある。ウイルスが入り込んでいる可能性を考え、要警戒地域との認識を持った方がいいようだ。

 現段階では、一般の人々への感染の恐れはないそうだが、要警戒地域であるとの認識が あれば、異常に気付くのがはやく、鶏舎を外部と遮断してウイルスから鶏を守ることができるし、病鳥に触ったりすることもなくなる。

 先ごろ、アジアでの鳥インフルエンザの防疫体制強化を目指して東京で国際会議が開か れ、渡り鳥と鳥インフルエンザ拡大の関係を分析するためアジア域内で専門家による研究グループを組織することが決まった。本紙が四十八年ぶりに取り組む舳倉島と七ツ島の自然環境調査でも渡り鳥が対象になっており、貢献を期待したい。

 日本では近年、西日本を中心にH5N1型や、これとはタイプがやや違い弱毒性のウイ ルスによる養鶏への感染が相次ぎ、強毒性はもちろん、弱毒性も強毒性へ変異する可能性があるため、ともに感染した鶏を大量に処分している。

 インフルエンザウイルスには大別してA、B、C型があり、三つとも人間に感染するの だが、とりわけAとBは警戒を要する。H5N1はもちろんA型だ。鳥インフルエンザが変異し、新型インフルエンザとして人から人へと感染するようになるとパンデミック(世界的流行)につながり、それが近づいているというのが研究者の共通認識である。H5N1型は軽く見るわけにいかないのだ。

◎下火の憲法論議 せめてまともな審査会に

 安倍内閣から福田内閣に替わって憲法論議がすっかり下火になった。昨年の参院選で、 憲法改正の旗を掲げた安倍自民党が大敗し、「憲法より生活」を訴えた民主党が参院の第一党になったのだから、改憲論議が国会の表舞台から消えても不思議ではないが、その参院選の結果生まれた「ねじれ国会」は、皮肉にも二院制の在り方、参院の存在意義といった憲法問題をより鮮明に浮かび上がらせることになった。

 それでも現在の与野党には、憲法問題に真正面から向き合う意欲がほとんど感じられな い。国民投票法の成立に伴い、昨年八月に設置された衆参両院の憲法審査会はまさに、「仏作って魂入れず」の状態である。審査会の委員数や議事手続きなどを定める規程がいまだに制定されず、審査会の実体がない状況は政治の怠慢というほかない。速やかに、あるべき姿に整え、機能させる必要がある。

 憲法は「衆院の優越」を認めており、今は衆院の再議決権を使って「唯一の立法機関」 の役割を果たしている状況である。しかし、与党が衆院で三分の二以上の議席を有するのは希有なことであり、普通なら再可決の可能性はほとんどなかろう。衆参両院とも民意を代表し、法案については実質的にほぼ同等の立場にある。互いに譲り合うことがなければ、国会はマヒするばかりである。

 このような時は、例えば、衆院の優越を担保する方法を現実に即して考え直すよい機会 と言えるが、与野党とも目をそらしたままである。民主党の小沢一郎代表と菅直人代表代行はかつて、選挙によらない議員で構成する参院や一院制を唱えていた。参院第一党になった今、そうした積極的な改革案は忘れ去られたようだ。

 憲法改正の論点は多数あり、「与党対野党」という発想を超えた議論を望む意見も国会 にある。しかし、そうした声は政権争いの中に埋没している。国民投票法で二〇一〇年には改憲発議が可能になる。その時に向けて具体的な改憲論議が求められる時期なのに、与野党とも「無為」の日々を過ごすつもりなのだろうか。


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