警察庁は、硫化水素の発生方法を記したインターネット上の書き込みを、傷害や傷害致死事件を誘発するとして「有害情報」に指定した。民間団体を通じてプロバイダー(接続業者)やサイト管理者に削除を要請する。
全国的に硫化水素を使った自殺が相次いでおり、その多くがネット情報を参考にしているとみられている。発生した硫化水素によって、自殺者だけでなく周辺住民が避難したり、体の不調で入院したり、最悪の場合、死亡するケースも起きている。とても放ってはおけない状況だ。「有害情報」としての削除の要請に強制力はないが、自殺を防止し、巻き添えなどの二次被害を防ぐためには必要な対策といえよう。
日本薬剤師会では既に四月一日、会員の薬局に対して硫化水素の発生に使われる恐れのある商品を大量に購入する客には、用途を確認するなど注意を呼び掛けている。厚生労働省も同二十五日、日本チェーンドラッグストア協会など医薬品販売の関係団体に対し、使用目的が不審な客には販売しないよう文書で通知した。店頭では危険性のある商品を容易に入手できないよう歯止めをかけることも、硫化水素を使った自殺の防止につながるだろう。
硫化水素による二次被害がクローズアップされているが、年間の自殺者が一九九八年以降、三万人を超えているという深刻な実態に目を向けなければいけない。警察庁によると、二〇〇六年の自殺者は三万二千百五十五人で、九年連続して三万人を超えた。人口十万人当たりの自殺死亡率は二三・七人と世界九番目で、英国や米国、カナダの二―三倍だ。
〇六年六月に成立した自殺対策基本法を受けて、昨年六月には自殺総合対策大綱が策定された。同十一月には自殺対策白書が初めてまとまった。個人的な問題として見過ごされがちだった自殺が、ようやく社会全体の問題としてとらえられることとなった。
大綱では、自殺の背景として多重債務、長時間労働、失業、介護疲れ、いじめなどの社会的要素を挙げ、「自殺は追い込まれた末の死」と定義した。自殺の予防には社会的な取り組みが必要という認識を社会全体で共有していかなければならない。
悩みや不安を抱えた人たちを追いつめるのではなく、声をしっかりとすくい上げるシステムが求められる。行政や警察、医療機関、民間団体などが連携を深め、一人一人の心に向き合えるような一段の環境づくりが必要だ。
政府は二〇〇七年度版「中小企業白書」を公表した。業況感が悪化し試練の時を迎えている中小企業の活性化と生産性向上に向け、どう対応すればよいのかに焦点を当てている。
中小企業の業況悪化の背景には、原油価格の高騰や資源高などが挙げられる。サブプライム住宅ローン問題の影響もあり、国内経済の先行きは不透明感を増している。〇六年ごろから倒産件数が増加に転じているのも気がかりだ。
少子高齢化で労働力人口が減少する中、持続的な経済成長のためには労働生産性の向上が不可欠である、と白書は指摘する。企業が生み出す付加価値を就業者数で割った労働生産性は、大企業を含めたわが国全体で米国の七割程度にとどまり、先進国の中でも低い水準という。しかも、中小企業の製造業は大企業に比べ四割以上低く、情報通信業や卸売業でも三割以上低いのが実態だ。
白書は、情報技術(IT)の活用や海外展開などを通じて付加価値の増大に取り組み、中小企業の労働生産性を高める必要がある、と提言する。具体的には、ITの活用策を拡充するため、中小企業が会計処理や顧客管理を外部委託するサービスを活用するよう求めている。また、経済のグローバル化が進展する中、高成長を遂げる中国やインドなど海外市場の開拓が生産性向上につながるとも指摘、仲介してくれる企業の確保を課題に挙げたが、前向きな挑戦が必要だろう。
中小企業は全国に四百二十万社を数える。雇用の場の七割は中小企業によって提供されており、日本経済を下支えする重要な存在である。経営革新によって中小企業が元気を取り戻さなければ、活力ある日本経済は望めまい。
(2008年5月2日掲載)