◆法医学者が説く“生きる”意味
◇『死体入門!』藤井司・著(メディアファクトリー/税込945円)
日本では公衆衛生上、死体は葬儀後、早々に火葬される。現代人は何かと健康に気を遣い、自らの死の迎え方も真剣に考えながら、死=死体との意識は低い、と法医学者の著者は感じてきた。そこで、著者は人が死ねばどうなるのか、死体を通じて“生きる”ことの意味を本書で我々に説く。古代のミイラ、口絵写真の『九相詩絵巻』(一人の死体が骨にまで変遷する鎌倉時代の絵)はじめ、洋の東西広く法医学的な見地も豊富に、体について教える。
火葬、土葬、風葬など葬儀も時代や国により異なるが、現代では樹木葬やダイヤモンド葬もある。前者は樹木を墓碑とし、遺灰を桜やモミジなどの下に埋める。
墓石の墓地は樹木を伐採し、地面をコンクリートで固めるため自然環境を損なう視点から考え出され、後者は故人の一部を常に身につけたい、という親族の気持ちから考え出された。遺灰に含まれる炭素から作るダイヤモンドは、0.2ニカラットで約四十万円という。
小児科や産婦人科を志望する医学生の減少が社会問題化しているが、法医学を取り巻く環境はさらに厳しい、と著者は訴える。医学部の法医学教室は全国に80で僅か160人。2006年に警察が扱った死体のうち1万4042体が解剖された。160で割ると法医学者一人で87体、四日に一体解剖の計算だ。解剖は体力と凄まじい集中力を要し、裁判提出資料の作成の仕事もあり、精神的な重圧も大きい、とも語る。
本書のタイトルに「不謹慎な」と考える人もいようが、法医学者の仕事の重要性を世に認識させたい著者の意図が反映されたもの、と読後は十分に理解できる。
<サンデー毎日 2008年5月18日号より>
2008年5月2日