手術ミスや誤った投薬などで患者が死亡した場合に調査に当たる医療安全調査委員会(医療安全調、仮称)の創設に関して、「医療を主管する厚生労働省に設置すべき」という意見と、「内閣府の下に独立行政委員会として設置すべき」という意見が激しく対立している。厚労省の死因究明制度に関する第三次試案は両論を併記して、「今後さらに検討する」としており、医療安全調の設置場所が大きな焦点になりそうだ。(新井裕充)
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厚労省は4月、診療行為などに関連した死亡の原因を調べる制度(死因究明制度)に関する第三次試案を公表し、国民からの意見を広く募集している。同試案は、死因が不明な「異状死」を警察に届け出るよう医療機関に義務付けている医師法21条の改正を打ち出すなど、第二次試案に対する医療現場の反発に配慮した内容となっている。
このため、関係団体が既に発表している「第三次試案への意見」では、死因究明制度の創設自体は評価する意見が多い。しかし、医療安全調に届け出る事案の範囲や、刑事手続きとの関係など、制度の各論部分に対する意見の違いは依然として残っており、医療安全調の設置場所を「内閣府の下」とする意見も根強い。
日本医療労働組合連合会(日本医労連)は医療安全調の公平性や中立性を重視して、「繰り返される薬害などの問題も併せて考えれば、厚労省内に設置すべきではない」と主張。設置場所の一つとして内閣府を挙げている。
全日本民主医療機関連合会(全日本民医連)は、明確に「内閣府の下に独立行政委員会として設置すべき」と主張している。全日本民医連は、医療安全調が独立性を保ち、各省庁に対して率直に提言していく必要性などを訴えている。
全日本民医連はまた、国土交通省の下に設置されている「航空・鉄道事故調査委員会」が将来、海難審判庁と一体となって内閣府の下に置かれる可能性を指摘した上で、「医療事故調査は、日本におけるさまざまな事故調査の一部分であり、事故調査体制の在り方に関する共通の議論を前提に進めていく必要がある」と主張している。
■ 厚労省の責任問えるか
死因究明制度の在り方に関する厚労省の審議会では、加藤良夫委員(南山大大学院法務研究科教授、弁護士)が内閣府の下に設置することを強く主張し、次のように述べている(昨年10月26日の第8回会合)。
「医療安全の問題を考えると、自治体病院や救急医療の分野に関連する場合には、総務省の所轄ということもある。医学部の定員の問題や、文部科学省の研究費を使った臨床研究などの中で起きる事故なども想定されるので、省庁にまたがる問題と言える。厚労省の大臣や関係省庁に物が言えるためにも、内閣府に設置すべきだ」
厚労省の第三次試案は、死因究明制度の目的として医療者個人の責任追及ではなく、「再発防止」を強調。医療機関の管理体制の不備などによって起きる「システムエラー」を改善するため、医療事故を起こした場合の行政処分として、再教育や業務改善命令などを挙げている。
しかし、医療事故の原因となる「システムエラー」の概念をより広げて考えるならば、医療政策に深くかかわる厚労省の責任も問われなければならない。医療安全調を厚労省内に設置した場合、果たして自らを「裁く」ことができるかどうか。今後の議論の行方が注目される。
更新:2008/05/02 19:52 キャリアブレイン
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高次脳機能障害に向き合う 医師・ノンフィクションライター山田規畝子
医師の山田規畝子さんは、脳卒中に伴う高次脳機能障害により外科医としての道を絶たれました。しかし医師として[自分にしかできない仕事]も見えてきたようです。