地裁所長襲撃:大阪高裁が「無罪」の家裁決定取り消し

 大阪市住吉区の路上で04年2月、大阪地裁所長(当時)が数人の男に襲われ重傷を負った事件で大阪高裁は25日、当時14歳の少年(18)について「無罪」にあたる不処分とした大阪家裁決定を取り消し、審理を大阪家裁に差し戻す決定を出した。大渕敏和裁判長は「審理が尽くされていない」と判断した。

 少年については(1)家裁での審判(中等少年院送致の保護処分決定)(2)少年側の抗告による高裁の抗告審(家裁決定取り消し、差し戻し)(3)家裁での差し戻し審(不処分決定)を経て、検察側抗告による今回の抗告審で4度目の審理が行われていた。今回再度、家裁に差し戻されたことで、5度目の審理が行われるという異例の展開になった。

 一連の審理では、逃走する犯行グループ4人が映ったとされる防犯ビデオの映像に、少年の共犯として逮捕された成人被告が映っているかが焦点となった。07年5月の大阪高裁での抗告審決定は映像が不鮮明なうえ、大柄な成人被告が映っているようには見えないとして、証明力に限界があると指摘した。

 これに対し、差し戻し審で検察側は位置関係によっては身長差がないように見えることを立証するため、ビデオ映像と同じ場面を再現したDVD映像の取り調べなどを求めた。しかし大阪家裁はこれを認めず「非行の証明がない」と不処分を決定した。

 この点について、大渕裁判長は今回の決定で「DVDが検察官の主張する内容であった場合、1回目の抗告審決定の判断根拠が崩れ去る」と指摘。「検察官が申し出た証拠調べを一切行わなかった審判手続きには、法令違反がある」と結論付けた。【川辺康広】

 ◇大阪地裁所長襲撃事件

 04年2月16日夜、大阪市住吉区の路上で発生。帰宅途中の鳥越健治・大阪地裁所長(当時)が襲われ現金約6万3000円を奪われ、腰の骨を折る重傷を負った。大阪府警は見張り役を含め5人組の犯行と断定。当時29~13歳の5人(成人2人、少年3人)を強盗致傷容疑で逮捕・補導するなどした。

 今回の少年を含め5人全員が無罪を主張している。成人2人は大阪地裁で無罪判決を受けた。検察側が控訴し現在、大阪高裁で公判中。当時16歳の少年は大阪家裁が「保護処分の取り消し」(刑事裁判の再審無罪に相当)を決定し、検察側が抗告を申し立て中。当時13歳の少年は児童自立支援施設での収容を終えたが「自白を強要された」と国などに賠償を求め提訴している。

毎日新聞 2008年3月25日 20時32分(最終更新 3月25日 21時46分)

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