富士の樹海「ひも」汚染 「探検」遊びの道しるべ放置2008年05月02日03時04分 富士山の北西に広がる青木ケ原樹海(山梨県富士河口湖町、鳴沢村)の木々に、無数のカラフルなひもが張り巡らされている。サバイバルゲームや「探検」遊びなどで樹海に入る人たちが、道しるべとして結びつけ、そのまま放置するらしい。富士山一帯の世界文化遺産登録をめざす山梨県は巡回を強化し、生態系への影響調査にも乗り出している。
青木ケ原樹海(約3千ヘクタール)は1千年以上昔に噴出した溶岩の上に腐葉土が積もり、そこに植物が生い茂った原生林の森だ。4月下旬、山梨県の臨時職員「富士山レンジャー」の巡回に同行した。 富岳風穴(ふがくふうけつ)付近(富士河口湖町)の遊歩道を歩くと、両側の茂みの奥に白、赤、青、黄のひもが光って見えた。原生林に入ると、あちこちの木々の幹や枝にひもが縛り付けられている。1本の木からクモの巣のように四方八方に延びるひも。樹海の奥深くへと誘導路のように続くひも……。ナイフで切っても回収できないほど長いものも多い。 回収を始めて1時間もたたないうちに、45リットルのゴミ袋二つがいっぱいになった。 遊歩道から外れた樹海の中は、入会権を持つ地元の人や、事前に許可を得た人以外は県条例で立ち入りが禁じられている。また、一帯は自然公園法の特別保護地区で、許可なく植物を傷つけることなども禁止されている。 だが、放置されたひもは樹海のいたる所にある。樹海を貫く国道139号近くの遊歩道周辺などが特にひどいという。レンジャーの秋葉圭太さん(27)は「原生林に入り込む人が、迷わないように付けている。回収しても、次の巡回時にはまた巻き付けられている」。サバイバルゲームやマウンテンバイク、キャンプに興じるグループを目にすることもたびたびという。 原生林の中でも人が頻繁に通った跡は、コケがほとんどなくなったり、樹木の根がむきだしになったりしているところが少なくない。 こうしたことから県の環境科学研究所(富士吉田市)は3年前から生態系への影響調査に乗り出し、場所ごとの植生や人の立ち入り状況などを分析中だ。研究員の一人は「人が入り込んだ所では土が硬くなり、植物が生えにくくなっている」と指摘する。 また、県は4月、富士山や樹海を巡回するレンジャーを2人から4人に増員したが、「広大な樹海には入り口が数多くあり、取り締まるのは難しい」(県富士・東部林務環境事務所)という。 青木ケ原樹海では5年ほど前から環境教育やエコツアーが盛んになり、「自殺の名所」のイメージは変わりつつある。県やNPOなど約30団体でつくるエコツアーの推進協議会によると、06年度の参加者は約4万3千人。ツアーによる生態系への影響も懸念され、一部には遊歩道以外に入る人もいると指摘されることから、協議会は独自にガイドラインを定め、立ち入り規制区域を設けたり、ツアーを1団体25人までに制限したりしている。 レンジャーの秋葉さんは「自然と人々の暮らしが共存してきたのが富士山。自然は限りあるものということを考え、樹海への立ち入りについて関係者が知恵を出し合う時が来ている」と話している。(岡戸佑樹) PR情報この記事の関連情報社会
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