「危うい超大国」中国の今をアメリカの中国ウオッチャーに聞きました。
急激な経済発展と強大な軍事力で、大国復活への道を歩む中国ですが、北京オリンピックを前にした混乱では、もう1つの未成熟な顔も見せました。
巨大にしてもろさも併せ持つ「ガラスの超大国」の今について、アメリカの中国ウオッチャーに聞きました。
中国の成功をアピールする晴れの舞台となるはずだったオリンピック。
しかし、本番前の聖火リレーで、チベット問題という火種を世界中に振りまく形になっている。
カリフォルニア大学のスーザン・シャーク教授は「ダライ・ラマや西側のメディアに対して厳しい姿勢を取ったことで、中国政府は、国内政治的には成果を出したと言えるでしょう」、「しかし、『責任ある国』の行動という面では、国際的な評価として、プラスには働いていません」と語った。
中国政府の対応に厳しい評価を下すシャーク教授は、1971年に閉鎖主義に終止符を打とうとする中国が、アメリカから招いた15人の留学生のうちの1人。
その後も頻繁に中国を訪れ、クリントン政権では、国務次官補として対中政策を統括、1998年の訪中にも同行している。
そんな、アメリカを代表する中国ウォッチャーであるシャーク教授は、先日、「中国 危うい超大国」というタイトルの本を発売した。
4月10日、中国外務省の姜瑜報道官が「ダライ・ラマとの間の問題は、人権や自由といったものではない。国を分裂させるか否かというものだ」と述べるなど、ダライ・ラマ14世や欧米諸国、メディアに対して、一貫して厳しい姿勢を取る胡錦涛政権。
実は、胡錦涛主席とチベットには、不思議な因縁がある。
1989年にチベット自治区で続発した暴動。これを武力弾圧したのが、当時自治区のトップだった胡錦涛主席だった。
これが評価されて、国家主席まで上り詰めた胡錦涛主席は、再び立ちはだかるチベット問題に、今回も強硬姿勢を取った。
しかし、これは政権の権力基盤の脆弱(ぜいじゃく)さの裏返しだと、シャーク教授は分析する。
シャーク教授は「胡主席は、毛沢東氏やトウ小平氏とは違い、江沢民前主席に似ています。大きな個人的な功績やカリスマ性があるわけでもなく、ただ中国共産党という大きな組織の中で出世を果たしてきただけの人物です」、「現在の指導部は、自分たちの人気は取り立てて高くないことを理解しています」、「長期的に権力を維持していけるという自信が持てないでいるのです」と話した。
「一党独裁」という言葉からは想像しがたいが、近年の中国の指導部は、過剰なまでに世論をおそれているという。
そして、それ故に諸外国と衝突する危険性があると警鐘を鳴らす。
シャーク教授は「問題になってくるのは、国民感情に訴える微妙な国際問題。具体的に言うと、日本や台湾、チベットなどが関係する問題です。これらの問題になると、中国政府は譲歩を拒否し、強硬な態度を取ることがあります。それは指導部が、国内世論というプレッシャーを感じ、自分たちの権力を守ろうとするからです」と語った。
経済成長率が4年連続で10%を超す新興経済大国という顔と、チベットやダルフールの人権問題などで見せる旧態依然の顔。
愛らしい外見とは裏腹に、凶暴な猛獣でもあるパンダを思わせる、この「危うい超大国」と、アメリカはどのような関係を築こうとしているのか。
2006年4月、ホワイトハウスで、ブッシュ大統領は「両国は国際社会の『ステークホルダー』として、多くの利益を共有しています」と述べた。
ブッシュ大統領は、9・11以前の「中国は経済的脅威」とする姿勢を一転、「ステークホルダー(利害関係者)」という言葉を使った。
その言葉を選んだアメリカの真意について、シャーク教授は「アメリカは、中国と協力していく準備があります。ヨーロッパ諸国や日本など、そのほかの主要国と同等な立場においてです」、「ですから、『ステークホルダー』の意味は、『中国が世界の舞台に登場したことを、われわれは歓迎している』、『中国の席は用意してある。だが中国も、それ相応の責任を負わなくてはならない』という意味なのです」と話した。
世界経済、核不拡散、地球温暖化など、米中が協力して対応しなければならない問題は多い。
そのためには、中国を「責任あるステークホルダー」として、国際社会に関与させ続けることがベストの選択となる。
最後に、クリントン政権の国務次官補で、ヒラリー候補とも親しいシャーク教授に「中国大使」という話もあることについて聞くと、「本当? そんな話、聞いたこともないですよ」、「オバマ候補も好きですよ。次の大統領はヒラリー候補、その次の大統領がオバマ候補、それがいいですね」と話した。
(05/02 00:12)