携帯電話の出会い系サイトなど有害情報にアクセスした小中高生らが犯罪に巻き込まれるケースが続発している。携帯電話会社は18歳未満の青少年が有害サイトに接続できない「フィルタリング(閲覧制限)サービス」を導入しているが、政府・自民党にはさらなる強化を求める声が多い。子供たちが使いやすく、安全なケータイをどう開発すべきか、議論が続いている。
■3回目の要請
増田寛也総務相は25日、NTTドコモ、KDDI、ソフトバンク、ウィルコムの携帯電話・PHS4社の社長を呼び、サービスの改善と導入促進を要請した。要請は06年11月以降、3回目だった。
自民党は青少年特別委員会(委員長・高市早苗前少子化担当相)や総務部会などが規制強化に向けた法案作成に取り組む。
携帯電話会社に、青少年を対象にフィルタリングサービス提供を原則として義務付けるほか、年齢ごとにきめ細かくフィルタリングの対象を定めるよう求めている。有害情報の認定は、特別委が国(内閣府)としているのに対し、総務部会は「表現の自由との兼ね合い」に配慮し、第三者機関とした。今後、党内で調整を進め、公明党を加えた与党案として提出する方針だ。
■民主も独自案
民主党も検討を急ぐ。とりまとめ作業中の「有害サイト対策法案」は、「表現の自由」とのバランスを取るため、サイトそのものは規制せず、子どもが有害サイトに触れる機会を減らすことを目指している。
ただし、政界と業界の足並みがそろっているわけではない。行き過ぎた規制を警戒する4社は、今年1月以降、18歳未満の未成年者が新たに契約する場合、親が「不要」と申し出ない限り、原則として携帯電話にフィルタリングを適用した。すでに契約した利用者についても、今夏以後、順次、連絡を取り導入を促す。
総務相の要請を受けた25日には、サイトの健全性を審査・認定する第三者機関「インターネット・コンテンツ審査監視機構」を設立、有害サイトを自主的に駆逐していく姿勢を鮮明にした。
フィルタリングを適用すると、若者に人気があるブログや掲示板への接続が不可能となるため、利用者から「接続が限定されており、使いづらい」との不満が相次ぐ。規制を強化すれば、現在以上に人気サイトが見られなくなる可能性が高い。
■経営に影響も
NTTドコモの場合、07年度の携帯電話の平均使用料は、通話料金引き下げを背景に前年度比5・1%減と減少した。一方、ネット接続などのデータ通信料は同9・5%増と上昇傾向にある。ネット接続が増えれば、バナー広告収入増も見込めるが、規制強化によりアクセスが減れば、経営に大きな影響を与えかねない。
新設した第三者機関は、有識者や業界関係者が有害サイト判定の基準作りを進め、健全サイトを認定する作業に当たる。審査を通ったサイトを、閲覧制限から外すよう携帯各社に働きかける仕組みを作ることで、利便性向上と収益確保を狙う。
設立会見で、堀部政男・一橋大名誉教授は「(健全かどうかの審査は、政府・与党が計画している)公的関与ではなく、民間の創意工夫で自主的に対処すべきだ」と強調。世話人で、ゲームソフトメーカー「コーエー」の襟川恵子・ファウンダー取締役名誉会長は「今の閲覧制限は、利用者である中高生の立場を考えておらず、あまりにも不便。もう少し現実を踏まえた形に緩和すべきだ」と訴えている。【川口雅浩、前川雅俊、堀井恵里子】
警察庁によると、出会い系サイトに関係して警察が昨年、容疑者を逮捕、書類送検するなどした事件は1753件で、前年に比べ162件(8・5%)減少した。しかし、18歳未満の被害者は1100人と前年(1153人)並みで、96・5%は携帯電話で出会い系サイトにアクセスしていた。848人は小中高生で、小学生女児も2人含まれていた。
事件の内訳は、児童買春・児童ポルノ規制法違反が760件(43・4%)で最多。強姦(ごうかん)43件、強制わいせつ15件、強盗21件などもあった。03~06年に計11件も殺人事件が起きている。
警察庁は「性犯罪などは被害を申告しにくいこともあり、被害の実態はもっと深刻なはず」と分析する。取り締まり強化に加え、フィルタリングの普及を呼びかけ、被害防止を図っていく方針だ。
保護者や教師たちはどうみているのか。
有害情報から子どもを守る活動に取り組む「ぐんま子どもセーフネット活動委員会」のメンバーで、前橋市に住む3児の母、小川真佐子さんは「フィルタリングをかければ安全というわけではない」と指摘する。現在提供されているフィルタリングでも、学校裏サイトなどにたどりつけるものがあるという。小川さんは「健全と認定されたサイトでも、子どもが加害者や被害者にならない保証はない」と危ぶむ。
子どもの情報モラル教育に詳しい千葉県柏市立田中小の西田光昭教諭は、フィルタリングについて「本来は親もかかわったうえで、見てもよいサイトを個々に決められるシステムにすべきだ。まだ改善の余地がある」と指摘する。
携帯電話は08年3月末現在、1億272万台が普及、このうち18歳未満は約750万台と推計されている。【遠山和彦、山本紀子】
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■ことば
携帯電話からインターネット上の有害サイトに接続できないようにするシステム。(1)携帯電話会社が選んだ「公式サイト」に接続を限定する「ホワイトリスト方式」(2)未成年者に有害と思われるサイトを閲覧不可能とする「ブラックリスト方式」--の2種類がある。前者は安全性は高いが、アクセスできるサイトが大幅に限定される。後者は、携帯電話会社が接続を制限するサイトを独自に選択しており、中立性に欠ける面がある。
毎日新聞 2008年4月30日 東京朝刊