読者に親しんでいただいている「山陽新聞」の題号は、六十年前のきょう誕生した。戦後の混乱が続く一九四八年五月一日である。
本紙は一八七九年に「山陽新報」として創刊されたが、曲折をたどり、終戦時には「合同新聞」になっていた。創刊以来「地域とともに」を基本方針としてきた新聞社にふさわしい題号に変えようと、読者から募集して決まったのが「山陽新聞」だった。改題には、戦後という新時代の羅針盤として新聞の使命を果たしていくとの強い決意が込められていた。
社史をひもとくと、応募は三万件を超えていた。数の多さに驚くとともに、地域の新聞を一緒に育てていこうとする読者の思いが伝わってくる。「山陽」は地勢や交通面だけでなく、経済的、文化的にも中四国の根幹をなして古くから親しまれた地名ということで選ばれた。
以後六十年間、先進国の仲間入りやバブル経済崩壊のほか、国際化、情報化など情勢の変化は激しい。変革の波をかぶりながら、その都度、エリアの中核主読紙として責任ある報道や論評に心がけ、文化や福祉の向上にも力を注いできた。
いま、新聞を取り巻く環境は厳しさを増している。インターネットの普及など情報伝達手段が多様化し、若者の活字離れが進む中で新聞の存在価値が問われている。
「新聞をヨム日」の四月六日に、東京で日本新聞協会主催の公開シンポジウムが行われた。テーマは「もし、新聞がなくなったら〜混迷時代の座標軸」。パネルディスカッションでは、新聞の危機が強く指摘された一方で、インターネットなどに比べ、新聞の優位性として一覧性や記録性などが挙げられ、調査報道や解説記事の充実が求められた。新聞の特性を生かして読者の信頼を得る重要性も再認識された。
戦後、中央集権体制のもとで高度成長をなし遂げてきた日本の成功体験は行き詰まり、政治の機能低下もはなはだしい。食の安全をはじめ、医療や年金の不安など生活基盤が揺らぎだした。大都市と地方の格差も広がる。地球環境の悪化も進む。内閣府の社会意識に関する世論調査では「日本は悪い方向へ向かっている」と答える人が圧倒的に多い。
改題六十年の節目に、正確な情報、的確な解説や深みのある論評など新聞の使命をあらためて肝に銘じたい。多くの課題にひるむことなく、「山陽新聞」の地域性にしっかりと軸足を置いて新たな歴史を刻んでいこうと思う。
揮発油税など道路特定財源の暫定税率を復活させる税制改正法案が、衆院本会議で与党などの三分の二以上の賛成多数で再可決、成立した。
二月末に衆院で可決された税制改正法案が、参院に送られて六十日以内に採決されなかったため、憲法五九条の「みなし否決」規定が適用された。みなし否決後の衆院再可決は、一九五二年以来、五十六年ぶり二例目という。異例なことだ。
ガソリン一リットル当たり約二十五円の暫定税率分が上乗せされることで、ガソリン小売価格は五月中に同百六十円を超える見通しだ。自動車ユーザーにとって厳しい負担増となろう。
福田康夫首相は、再可決後の記者会見で「地方に歳入不足の不安が広がっており、この無責任な状態を解消するため」と暫定税率復活の狙いを述べた。
道路特定財源の使途については、道路関係公益法人などへの不透明な支出や娯楽用品購入といった無駄遣いが国会で次々に明らかになった。それにもかかわらず、与党は衆院の数の力で強引に、暫定税率を引き下げもせず、そのまま元に戻した。到底納得できるものではない。
一方で、政府・与党は道路特定財源の一般財源化へ向けて作業を進めている。記者会見で福田首相は「一般財源化を進め、道路特定財源を生活者の視点で見直したい」と強調したが、問題がある。
一般財源化となると、税制そのものが問われる。揮発油税や自動車重量税など自動車関係の税は、使い道を道路整備関連に限定している目的税だ。一般財源化して道路関連以外何にでも使えるようにすると、負担と受益の関係が崩れる。
税を負担する自動車ユーザーにとっては、納得できないことばかりだ。
(2008年5月1日掲載)