チベットの人権問題を理由に欧州各国首脳が北京五輪開会式出席を見送る中、福田康夫首相が出席する方向になった背景には中国側に「貸し」をつくることで、今後の対中外交を有利に展開したいとの思惑がある。ブッシュ米大統領も出席する考えを堅持しており、日米が共同歩調になることも後押ししたようだ。
ただ、チベット問題の決着が見通せない段階での出席判断には、内外の対中国強硬派による反発が予想される。七月に主要国首脳会議(北海道洞爺湖サミット)を控え、首相が厳しい批判にさらされる可能性も否定できない。
五輪開会式に誰を出席させるのか、政府は回答を迫る中国側に対し、具体的な言及を避け続けてきた。胡錦濤国家主席の来日を目前に、五輪出席問題は「東シナ海のガス田問題などで譲歩を引き出す強力な外交カードになる」(政府関係者)として、慎重に判断のタイミングを探っていた。
「中国政府が努力している最中に、五輪に参加しないとか言うべきではない」。首相はこれまでチベット問題で対話推進を促す一方、中国に批判的な欧州諸国の立場とは一線を画してきた。政府筋は「中国側の出方次第では、自分が開会式に行ってもいいというシグナルだった」と、発言の意図を解説する。
中国側もこうした日本の対応に一定の配慮を示してきた。中国外務省が四月二十五日にチベット仏教最高指導者ダライ・ラマ十四世側との対話再開に向けた準備を進めていると公表した際、日米両政府に外交ルートを通じて内容を事前通知したのは、その表れだ。
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