INTERVIEW
安藤裕子
Interview 2006.08
安藤裕子の2006年シングル第1弾『TEXAS』は、自分の「スタンダード」だと語る表題曲に加え、名曲『のうぜんかつら(リプライズ)』に勝るとも劣らないメロディが胸を打つ『ヘイディーズ』、そしてファニーなカバートラックとなった『ゴーイン・バック・トゥ・チャイナ』と、それらのインストを収録した全6曲の“ミニチュア・アルバム”となった。
という訳でこのシングルで目指したもの、どれほどの想いを込めたのかを彼女にインタビューしてきました!
−シングル『TEXAS』はアルバム『Merry Andrew』を1つの括りとすれば、次のステップになる作品になりましたよね。
安藤:いつもアカペラで作ったものを元に、スタッフアレンジャーとディレクターと私の3人で一緒に完成させていくんですけど、この曲、『Merry Andrew』に入っている『のうぜんかつら(リプライズ)』みたいにピアノとアカペラっていう形が多くの人に認知された後の作品だから、今度は私たちがこの3年作り上げて来たスタンダードを見せたいなと思って作りました。迷った時は原点に帰ろうみたいなことで。
−凄くストレートな感情が表現された世界観になりましたが、作る上で意識したことは?
安藤:男版『あなたと私にできる事』みたいな感じだってよく言ってるんですけど、歌詞に関して意識したことはそんなに無いです。いつもテーマも何も無い状況で、メロディから想起されるものを綴ったりするから。そういう意味ではこういう可愛くて素直な曲が出来て嬉しい。やっぱり人間としてそう在りたいから。
−確かに詞も曲も凄くポップでキャッチーな楽曲で、やっぱり『Merry Andrew』があって、『のうぜんかつら(リプライズ)』があった中での安藤裕子っていうのを感じさせる楽曲です。
安藤:そうですね、ありますよね。「『サリー』みたいな曲を作ろう」って掛け声があるんですけど、『のうぜんかつら』の時も今回も、「よし!『サリー』みたいなの作るか!!」って。元々、3人全員が初めて納得出来た曲が『サリー』なんですよ。出会った当初は凄い探り合いで、そういう作業の中で初めて3人の意見が合致したのが『サリー』だった。だからそこを思い出そうっていうのがやっぱり最近のテーマ。
それに私はやっぱりポップスを歌う人でありたいんですよね。ジャンルを分けたくないし、アーティストって呼ばれるのも嫌だし。かと言ってミュージシャンとも自分では思ってない、楽譜読めないし、楽器も弾けないし(笑)。だけど私は歌を歌う人間で、その世界を作る人間で、それに感じて共感を持つ人が寄って来て、仲間になって作業をする。
昔、友達が教えてくれたんだけど、ポップスっていうのはみんなが夢を見ていい場所だって。それまでの、クラシックは上流階級だけの音楽だったり、ブルースは労働者向けの音楽だったりしたけど、文化とか資格を求められるようなものはやりたくないんですよ。
−誰もが好きになって良い音楽、広く聴かれる音楽を続けたい?
安藤:人に伝わり難い高尚なものに突っ走ってしまったりとか、そういうことのないように周りがなだめてくれるし、意見もくれる。自分もそういう人たちを信用して耳を傾ける人間でいたいと思うので、そういう意味では『TEXAS』や『あなたと私にできる事』のように、歌詞もメロディーも人に伝わり易いものが作れることが嬉しい。
普段どうしても性格的に遠まわしな言い回しになりがちだけど、人と交わることでそういうストレートなものが作れるのは、やっぱり良いことだなと。
−では続いてM-02『ヘイディーズ』ですが?
安藤:何か荘厳な感じにしたかったんですよ。例えば葬儀の時に鼓笛隊が奏でる音楽みたいな感じというか。それに今まではCD用として域を越えない歌い廻しが多かったんですけど、この曲は、歌に変化がある。
『TEXAS』に関しては歌も楽器として扱ってる感じが凄くあってプレイヤーの感情が出たんですけど、『ヘイディーズ』に関しては歌の感情が強い曲だなって。
『TEXAS』が安藤裕子って言う名前の3人のバンドで作ってる感じの曲だとしたら、『ヘイディーズ』は安藤裕子っていう個人が作ってる曲っていう雰囲気に近いかなと。だからこのシングルでその両方を感じてもらえたらいいですね。
−また、歌詞に「名前を呼ぼう」とのくだりがありますが、『TEXAS』にも「名前を呼んだら」って歌詞がありますよね。
安藤:私ね、同じ言葉が凄く多いんですよ。自分が寝るの大好きだから「眠る」とか(笑)。私が歌う事って、目の前に居る人に対して語りかける、相談しているというか、対個人に対して歌ってる事が多いと思うんです。その中で毎回その人自身を必要としたりして。だから、それはその人の名前であり、個人を指し示すものであったりするのかもしれない。
−M-03『ゴーイン・バック・トゥ・チャイナ』はカバー曲ですが、この曲今回選んだ理由っていうのは?
安藤:以前『春咲小紅』のカバーをした時に味をしめたっていうのもあるんですけど、やっぱり自分で作る曲って、自分に埋もれてしまう。だけど、もっと遊びたいって思ってることも多いんですよ、音楽やる上で。人の言葉を借りて、なりきって、人が描いたストーリーを演じるというか、そういうのもやりたいなと常々思っていて。で、ディレクターとお好み焼き屋さんに行ったら、『ゴーイン・バック・トゥ・チャイナ』の原曲が流れてて、「あっこれ可愛い。やりたいやりたい!」みたいな。
最近、私とスタッフの中で歌謡曲の熱が凄く盛り上がってて。昔の歌謡曲って凄く丁寧にサウンド作ってるし、クオリティの高いものが多くて、それを再構築して負けないように質が落ちないように、真剣に遊び心を忘れないように作りました。
−確かにクオリティの高いサウンドになっていますよね。
安藤:そういう意味でもカップリングとは思って欲しくないし、ある意味この3曲の中で1番演奏者が多いですね。カップリングだからっていうサウンド・プロダクションはしてないので、やっぱ曲の並びとか、聴き手に対してどうかなって考えて配置してるからその辺も楽しんで頂けたら。
文・インタビュー●杉岡祐樹
PROFILE
■あんどうゆうこ
1977年5月生まれ。神奈川県出身。映画関係の仕事を志し、その過程で受けたオーディションで絶賛され、曲作りするようになる。2003年にミニアルバム「サリー」でデビュー。濁りの無い透き通った音楽、真っ直ぐで飾らない姿に、特に多くの女性から共感を得ている。数々の良質音源をリリースし、その中でも月桂冠『定番酒つき』のCMテーマソング「のうぜんかつら」は問い合わせが殺到するほど話題となった。新世代のシンガー・ソングライターとして今最も注目されている。
■公式サイト
- Permalink
- by けむナビ
- at 16:14