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あおもり医のゆくえ

自治体病院の資金不足深刻

2008年04月25日

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 自治体病院の資金不足を示す不良債務が増加し、大きな問題として浮上してきた。朝日新聞社の調べによると、07年度、県内28の自治体病院の不良債務額は、前年度の156億5千万円を15億円上回る171億円に達し、過去最高を更新する見込みだ。
(米沢信義)

 地方財政健全化法が08年度決算から適用され、行政の病院会計の不良債務も連結実質赤字比率に組み込まれる。

 不良債務を放置すれば、財政再建団体への転落が危ぶまれる自治体もあり、医療以外の住民生活にも影響を及ぼす恐れもある。

 県内28の自治体病院のうち不良債務を見込むのは21病院にのぼっている。(いずれも07年度実績)。不良債務を3億円以上抱える自治体病院は表1の通り。

 八戸市民病院は06年度比3億3千万円増の18・7億円▽十和田中央病院が同4億1千万円増の14億円▽黒石病院が同3億5千万円増の15億8千万円など、比較的大規模な病院でも、資金繰りが悪化している。

 むつ総合病院本体は国の経営健全化計画により、06年度より12億円減の11億8千万円に不良債務を減らしたが、付属診療所の大畑、脇野沢などの不良債務が増大し、全体の減少額は9億円だった。

 これに、大間、川内などを含めた一部事務組合下北医療センターの不良債務総額は73億4千万円となり、県内でも突出している。

 また、野辺地病院では7年ぶりに、五所川原市の西北中央病院では8年ぶりに、不良債務が発生する見込みだ。

 病院会計は、年度末の収支を経て数値が変動する可能性があるが、県市町村振興課は「総額が170億円を超す可能性は高い」と見ている。

 ■「連結」で明るみに

 不良債務が膨らんだ理由として各病院が挙げるのは、医師不足と、たび重なる診療報酬の引き下げだ。

 特に、04年に国が導入した臨床研修の必修化に伴って弘前大医学部に医師が残らなくなり、自治体病院から医師を戻す動きが加速したことが大きい。「年度途中で内科医と整形外科医の2人減」(鰺ケ沢中央病院)「整形外科と外科の常勤医が不在のダブルパンチ」(三戸中央病院)。

 各自治体にとって、病院会計の不良債務の増大は無視できない問題となっている。

 地方財政健全化法の指標となる連結実質赤字比率を06年度の県内市町村にあてはめると、同比率が高い上位には自治体病院の不良債務を抱える自治体が並ぶ(表2)。連結することで、病院経営の「病巣」が明るみに出た形だ。

 特に黒石市と大鰐町は、同法の再生団体への移行基準である30%を超えてしまいかねない。赤字の解消は待ったなしだ。「相当なちからわざが必要で、病院も『聖域』とは言っていられない」と、鳴海広道黒石市長は話す。

 下北医療センターなどの一部事務組合方式の不良債務は連結実質赤字比率の対象外だが、金融機関の融資が滞れば破綻(はたん)する危険もある。

 ■特例債にも要件

 自治体病院が注目しているのが、総務省が昨年12月打ち出した不良債務軽減のための「公立病院特例債」だ。

 発行は08年度のみ。07年度決算で、病院会計の不良債務比率が10%以上の自治体が対象となる。

 本来は1年以内に返済すべき借金である不良債務を、7年間で返済する特例債に借り換えることができ、不良債務の解消につながるという。

 しかし、対象となる不良債務は事実上04年度以降に発生したものに限られ、自治体は経営改革プランを策定し、単年度黒字化の道筋を示さなければならない。

 「医師不足の中で、どれだけ具体的なプランを立てられるのか」と、ある自治体病院の事務長は不安を漏らす。

 03年度以前に不良債務の増えた板柳中央病院は「特例債のメリットは少なく、自力で借金は解消するしかない」。

□表1
07年度、各自治体病院の不良債務見込み額上位(億円)
むつ総合  51.4
八戸市民  18.7
黒石    15.8
十和田中央 14.0
川内    13.7
三戸中央  10.1
金木     9.9
板柳中央   7.7
鶴田中央   7.0
大間     4.5
鰺ヶ沢中央  3.7
大鰐     3.1
(3億円以上)

□表2
県内市町村の連結実質赤字比率上位 太字は自治体病院の赤字を抱える市町村(06年度)
1 黒石市  −26.0
2 大鰐町  −25.1
3 今別町  −18.8
4 三戸町  −15.5
5 むつ市  −14.8
6 板柳町  −12.3
7 鶴田町  −11.1
8 中泊町   −4.8
9 深浦町   −3.2

■自治労連青森県本部・自治体病院職員 金川佳弘さんに聞く

 青森県の自治体病院の不良債務は国全体の2割近く。北海道と並んで全国で突出しています。全国的に不良債務が増える要因は、医師不足、地方交付税削減、診療報酬引き下げの「三重苦」と言われますが、青森は特に、その影響を強く受けました。

 もともと県の医師不足は全国でも最悪だったのに、臨床研修の必修化によって弘前大の研修医がさらに大都市に流れていなくなった。

 三位一体改革による地方交付税の削減で、影響を強く受けたのも青森の市町村。体力をそがれた市町村は病院への繰入金を削減し、病院経営悪化に拍車をかけました。

 ただ、経営が悪化して自治体で病院を支えきれなくなっても、ほかに民間の病院がない「医療過疎」の地域が多いのも青森の特徴です。

 これまで病院会計の不良債務は病院内の経営上の問題にとどまっていましたが、地方財政健全化法の施行で自治体全体の問題となりました。

 自治体は病院経営の情報を住民に積極的に知らせ、地域医療にどこまで税金を使っていいのか話し合うべきです。さらに、いまの医療制度では地方の病院が崩壊する現状に対して、住民がもっと声を上げるべきです。
(インタビュー・構成 米沢信義)

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