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No.13 レインズインターナショナル「牛角」より
 星本多加志は毎日、なじみ客が今日何を頼んだか、メモを取る。その時にどんなBGMを流していたか、何人で来ていたかを一緒に記しておく。こうして覚えておくと、いつその人と言葉を交わしても、話題に困らず失礼がなくなるからだ。

「牛角」チェーンの話ではない。東京・江東区枝川の東京朝鮮第二初中級学校のそばにある「みゆきや」という店である。すぐ四、五軒先にも焼き肉店が並ぶ、知る人ぞしる焼き肉激戦区である。

 当地でホルモン焼きの店を星本の父が始めたのが三十年前、二年前に二代目の星本が焼き肉主体の店にメニューを変えた。そのころから「ブルータス」など雑誌の焼き肉特集で紹介されることが増えた。この運河に囲まれた埋め立て地の倉庫街まで、芸能人や作家がタクシーを飛ばしてやってくる。

 この店のことを最初に書くのは、これが牛角とは対極にある個人店のありかただと思うからだ。店にはなじみ客が多く、星本やその妻、店員とみな軽口をたたきあう。時々、星本が仕入れた新しい内臓肉を「味見して」と皿に載せてくれるサービスもある。親しみのあふれる空間と店主の職人魂。一人五千円程度という値段は、十分価値があると私は思っている。

 最寄り駅の一つ、門前仲町駅前にも牛角ができた。

 「うちは一切影響は受けてません」
 星本は自信たっぷりだ。

 とはいえ、星本も含めて焼き肉のプロは、数あるチェーン店の中でも「牛角」を高く評価する。

「天災ですね、これが自分の店の横に来たら。個人店で太刀打ちできるレベルじゃない」

 頼んだ肉を炭火で焼きながら、ある焼肉店経営者はこう漏らした。私は焼肉店の経営支援サイト「焼肉大学ドットコム」の運営者四人に、東京・町田駅前の商店街にある焼き肉チェーン「牛角」町田店に集まってもらっい、プロの目でみた牛角への意見を直に聞かせてもらった。

 彼らが評価するのはこんな点だ。百七十種類に及ぶメニューの数。カルビ一人前三百八十円、ハラミ四百九十円といった安さ。肉の鮮度や味付け。きびきびした店員の態度。

 また店の雰囲気−−古材を使った和風の内装にBGMはジャズ−−は、蛍光灯がピカッと光る焼肉店とは一線を画している。「蛍光灯で店を明るくすると、黒ずんだ肉でも赤くきれいに見えるんですよ」と、サイト主催者の朝原雅之がこっそり教えてくれた。

 この日、私を入れて五人が一時間半飲み食いして、かかったのはわずか一万四千五百四十二円だった。

 「牛角」とは外食事業を手がけるレインズインターナショナルの焼き肉チェーンである。九六年一月に東京・三軒茶屋に一号店(当時の店名は「七輪」)を開いてから、二〇〇一年八月末には全国で三百七十二店を営業。最速で日本一の店舗数の焼き肉チェーンを構築した。二〇〇〇年十二月には株式を店頭市場に上場。売上高は八十七億円、経常利益は十億円(二〇〇〇年度)に上る。

 牛角の新しさは値段や品揃えよりも、システムにあると私は知った。個人店が悲鳴を上げるのも無理はないと思った。

 事業のアイデアは社長の西山知義(三五)の実体験に根ざしている。

 西山はずぶの素人から焼き肉業界へ参入した。私が事前に話を聞いた食肉市場の関係者は「西山さんは在日韓国・朝鮮人で、親戚などに焼き肉に詳しい人がいて助けてくれたからうまくいったのではないか」と話していた。が、事実はそうではない。

 渋谷の巨大インテリジェンスビルの一フロアを借り切った豪華なオフィスで、丸顔でまだ青年の面影を残した西山は、にこやかに起業の動機を語り始めた−−

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