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立体回路とマイクロ波の伝送

マイクロ波を自由空間に放出すると回折によって広がってしまう。 また,マイクロ波の高周波振動電流を普通の電気回路に流すと, 大部分のエネルギーは電磁波となって外に逃げてしまう。 したがって、マイクロ波を伝送するためにはある空間内に閉じ込めることが必要になる。 具体的には,金属でつくられた中空の管(導波管)の中にマイクロ波を通し, これを基本とする種々の回路要素を組み合わせてマイクロ波の伝送を行う。 導波管を組み合わせた回路を立体回路という。

  1. 導波管内の電磁場
    導波管内の電磁場は,断面の形状と壁面の物理的条件に関する境界条件を 考慮した境界値問題としてマクスウェル方程式を解いた結果によって与えられる。 この実験で用いる矩形導波管の寸法は,a=10.16mm, b=22.86mmであって, 10GHz付近のマイクロ波(Xバンド)に対して,図4に示した 電磁波($ H_{01}$波)を通す。 その電場ベクトル成分 $ (E_x, E_y, E_x)$と磁場ベクトル成分 $ (H_x, H_y, H_z)$は次式で与えられる。
    $\displaystyle E_x$ $\displaystyle =$ $\displaystyle E_0\sin \left( \frac{\pi y}{b} \right) \cos \left[ \omega t - \frac{2\pi}{\lambda_g} z \right], \hspace{1cm} E_y=E_z=0,$  
    $\displaystyle H_x$ $\displaystyle =$ $\displaystyle 0,$ (1)
    $\displaystyle H_y$ $\displaystyle =$ $\displaystyle \frac{E_0}{\omega \mu_0} \frac{2\pi}{\lambda_g} \sin \left( \frac{\pi y}{b} \right) \cos \left[ \omega t - \frac{2\pi}{\lambda_g} z \right] ,$  
    $\displaystyle H_z$ $\displaystyle =$ $\displaystyle \frac{E_0}{\omega \mu_0} \frac{\pi y}{b} \cos \left( \frac{\pi}{b} \right) \sin \left[ \omega t - \frac{2\pi}{\lambda_g} z \right] .$  

    ここで,$ E_0$は電場振幅,$ \mu_0$は真空の透磁率,$ \lambda_g$は管内波長である。

    自由空間波長を$ \lambda_0$とすると,$ H_{01}$波に対する管内波長は,

    $\displaystyle \lambda_g = \frac{\lambda_0}{\sqrt{1-\left( \lambda_0/2b \right) ^2}}$ (2)

    で与えられる。

    図 4: H$ _{01}$ 波の電磁場の分布
    \includegraphics [width=10cm]{psfiles/micro_EH.eps}

  2. 導波管内の定在波
    導波管内ではある方向に進行する電磁波と同時に,逆向きに進行する 電磁波が存在するとき,定在波を形成する。 定在波の様子から,マイクロ波の管内波長や,導波管の終端に つけられた物質や負荷特性を知ることができる。 $ +z$および$ -z$方向に進行する周波数$ f$の導波管内のマイクロ波の 電場振幅を$ E_1, E_2$とすると,合成波の電場は,

    $\displaystyle E(t,z)= E_1 \cos \left[ 2\pi ft - \frac{2\pi}{\lambda_g} z \right] + E_2 \cos \left[ 2\pi ft + \frac{2\pi}{\lambda_g} z \right],$ (3)

    で表わされる。 定在波を実際に観測する場合には,マイクロ波強度に比例する$ E^2$を 時間平均した量の$ z$方向分布,すなわち,

    $\displaystyle I(z) = < E^2 (t,z) >_t = E_1^2 + E_2^2 + 2E_1E_2 \cos \left( \frac{4\pi z}{\lambda_g} \right),$ (4)

    を測定する。 その結果を解析すると次のことがわかる。 まず,この関数の1周期は $ \lambda_g/2$であり,管内波長$ \lambda_g$が求められる。 また,$ I(z)$の最大値,最小値をそれぞれ $ I_{max}, I_{min}$としたとき,

    VSWR$\displaystyle =\sqrt{\frac{I_{\rm max}}{I_{\rm min}}} = \frac{E_1+E_2}{E_1-E_2},$ (5)

    を電圧定在波比(VSWR)という。VSWRの測定から,導波管の終端につけられた 負荷に対する電場反射率$ E_2/E_1$が求められる。

図 5: 定在波の強度分布
\includegraphics [width=8cm]{psfiles/micro_st-wav.eps}


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takiz@chs.nihon-u.ac.jp 平成12BG/12月21日