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【暮らし】

混乱する −後期高齢者医療制度−

2008年5月1日

 原則七十五歳以上を対象にし四月に始まった後期高齢者(長寿)医療制度は、老人保健制度に代わる制度。窓口負担は同じで、対象者も変わりませんが、さまざまな違いがあります。二つの制度の相違点と新制度の狙いについて疑問にお答えします。 (佐橋大)

<Q>二つの制度の違いは。

<A>老人保健制度は国民健康保険(国保)などに入ったままで制度が利用できたが、後期高齢者医療制度では国保などを脱退してから制度に入らなければならなくなった。

<Q>なぜそんな必要があるのか。

<A>老人保健制度医療の財源は窓口負担を除くと、公費五割、国保や健康保険組合(健保)が払う拠出金が五割。

 ところが、少子化などの影響で、働いて保険料を納める人が減り、拠出金で支える高齢者が増えているため、国保や健保の財政が悪化している。

 高齢化の流れは今後も続くため、財政悪化を招き、破たんすることもあり得る。新制度はそれを防ぐためだが、将来は若い人の保険料の大幅な引き上げも。

<Q>新制度の財源の内訳は。

<A>新制度では、高齢者の保険料で負担する割合を医療給付費の10%と明確化。このため窓口負担を除くと、公費五割は旧制度と変わらず、七十四歳以下の人たちが加入する保険から出される「支援金」が四割、七十五歳以上の人による保険料が一割となる。

 高齢者の保険料でまかなう割合は、高齢者の増加に比例して高くなる仕組み。その分、若い世代が負担する「支援金」の割合が減り、負担の急増は避けられる。

<Q>負担分10%の根拠は?

<A>老人保健制度で、七十五歳以上の高齢者の保険料が全体の10%に当たると、厚生労働省は推定しているからだ。

 この推定が正しければ、高齢者の保険料の負担割合は、新制度でも増えないことになる。

<Q>高齢者の保険料は今後増えるか。

<A>厚労省は、高齢化の進行で一人当たりの保険料の平均が、本年度年額七万二千円から二〇一五年度には八万五千円に上がると試算。茨城県医師会の原中勝征会長や全国保険医団体連合会は「保険料負担の増加が高齢者の生活を圧迫し、受診抑制につながる」と批判する。

<Q>老人保健制度と同じ医療サービスを受けられるか。

<A>厚労省は「従来と同じサービスを受けられる」と強調。患者の窓口負担も原則一割のまま。しかし実際には、保養施設の利用料割引や人間ドック受診の助成カットなど、各自治体独自のサービスが受けられない例も表面化している。

 新制度の根拠となる「高齢者の医療の確保に関する法律」には、国の責務として、医療費増加を抑えるために諸施策を積極的に推進することを盛り込み、都道府県ごとに独自の診療報酬を定められることも規定する。

 しかし、医療費抑制のため報酬が減れば、医者が高齢者を積極的に診られなくなるのでは、との指摘もある。

<Q>夫が会社員。四月の健康保険の明細は「医療分」「支援金分」が分かれていたが。

<A>これまでは健康保険に払った保険料のうち、何割かが老人医療のために使われ、残りを自らの健康保険のために使っていた。しかし新制度では、高齢者に使う分を「支援金」として明確に分けるようになった。国保では四月から、支援金を明示しており、健康保険でも支援金を区別して示すところもある。

 負担が増えたと感じる人もいるが、それは支援金のせいではなく、医療費が増えたり、保険料を負担する人が減ったりしためだ。

保険料格差を縮小

 このほかにも、老人保健制度から変わった点はある。従来、高齢者の多くが加入していた国保は市区町村が運営主体。それぞれに保険料を決めていて、多い自治体と少ない自治体の間では、保険料に最大五倍の格差があった。

 新制度は、都道府県ごとに市区町村が加入する広域連合が運営。同一都道府県内で所得などの条件が同じなら原則、同じ保険料になる仕組みだ。都道府県間の保険料格差は二倍弱に縮まった。

 一方、保険料が低かった市区町村の国保加入者は、都道府県内の平均に合わせられるため、高い保険料を払わされるケースも出てくる。

 保険料を滞納した場合の対応もこれまでと違う。新制度では、一年間保険料を滞納すると保険証が取り上げられ、被保険者資格証が交付される。資格証で受診すると窓口では医療費が全額負担となる。領収書をもらって役所に申請すれば、後で保険給付分(原則九割)は戻るが、その時点で滞納があると、給付の際に保険料未納額を引かれる。

 しかし「取り上げ」は問題が多いとの声もあり、各県の広域連合は現在、運用方法を検討中という所が多い。国保でも一年間の滞納者は同様の扱いを受けたが、七十五歳以上は対象外で保険証を取り上げられることはなかった。

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