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2008年5月1日発行
 
長野聖火リレー かき消された「フリーチベット」
 

沿道うめつくす五星紅旗
「尊厳と権利」長野市長 言葉もむなしく

 「五星紅旗」が風にはためいた。聖火リレーコース。沿道が「五星紅旗」に埋め尽くされる。
 道路を挟んで向こう側に「雪山獅子旗」が見え、かすかに「フリー・チベット」を叫ぶ声がする。亡命チベット人や、彼らの支援者たちがいるにはいた。だが、数はあまりにも少ない。何事かを必死に訴える声は、中国語にかき消された。「加油中国(ジャアヨウチョングォ)」(がんばれ中国)の大合唱だった。

   

 4月25日。聖火リレー前夜。長野駅前ではチベットの独立を訴える人々が三々五々集まり始めた。気勢を上げる者もいた。
 「明日は『チベット独立』を叫ぶつもりです。中国人もたくさん来るらしいが、叫ばなければならないと思っています」
 名古屋から駆けつけたという3人のグループは興奮気味に話した。混乱を案じていたのか、長野市民という男性がつぶやいた。
 「10年前の聖火リレーでは、沿道の人と聖火ランナーが手を振り合って聖火を運んだ。でも明日は中国人とチベット人がたくさん来るらしいからね。無事に終わればいいけど…」
 当日の朝、長野駅前には早くから中国人グループとチベット支援団体らがにらみ合った。辺りは一触即発の雰囲気に包まれた。
 長野駅から北へ約2キロ。善光寺では、チベット騒乱で死亡したチベット人と中国人治安部隊の犠牲者を追悼する法要が営まれた。境内を埋めたのはチベット支援者たちだ。中国人は一人もいない。
 8時15分。聖火リレー出発式が始まった。鷲澤正一長野市長が世界人権宣言の一節を引用し、「すべての人間は、生まれながらにして自由であり、かつ、尊厳と権利とについて平等である」と周囲に向かって呼びかけた。ちょっとしたハプニングだったと言える。市長は明らかに北京五輪への一つのメッセージをこめた。
 市長の言葉をよそに、中国人グループのボルテージは上がった。正常な聖火リレーであれば何の不自然さもないのだろう。「頑張れ中国」、「長野ありがとう」、「日本ありがとう」…。だが、中国人グループの掛け声を中国人からの五輪精神のメッセージとして受け取る人はおそらく誰一人いなかった。
 「聖火リレーを我が物顔で私物化している。不愉快きわまりない。考えてみてくれ。これ以上のことを彼らはチベットでやっているのだ」と、チベット支援団体の男性職員が叫ぶ。
 リレー終了後、静けさを取り戻した善光寺で、日本人男性と中国人留学生が議論を交わしていた。
 「あなたはかわいそうだ。中国共産党に騙されているのだよ」と日本人男性。中国人留学生がすかさず反論する。「騙されているのはあなただ。欧米メディアの報道を鵜呑みにしてはいけない」
 議論は平行線をたどるだけだった。同様の議論は世界中で続いたはずだ。それでも、中国の聖火リレーは強引なまでに国際ルートを走り続け、中国の「聖火警護隊」はますます人員を増やしている。長野の聖火リレーを見て、なおさら、中国政府は自信を深めただろう。

善光寺前。チベット支援団体の声は中国人グループに届かなかった
 
   

長野にて

 チベット騒乱をめぐり、長野では中国人とチベット支援団体の主張が飛び交った。それぞれの主張を探ってみた。
 中国人留学生Aさん(男性)
 「チベットは昔から中国の一部。チベットで不満を口にするチベット人はほとんどいない。経済的に豊かになっているのも事実だ」
 中国人旅行者Bさん(女性)
 「自治を求めているのは一部のチベット人。チベットに行ったこともない人が、欧米メディアの報道に騙されている」
 チベット支援団体
 大学講師の米国人Kさん(男性)
 「チベットには4回行き、インドではダライ・ラマとも会った。中国にいる中国人は、自由に海外の情報を見られない。政府がブロックしているからだ。日本にいる中国人留学生は、今のうちに本やインターネットで事実を知る努力をしたほうがいい」
 日本人男性
 「彼ら(中国人留学生)も中国共産党の被害者だ。いつか自分の過ちに気づくときがくる」

 


約20人の少数民族が中国政府に状況の改善を求めてデモを行った
 
   

中国少数民族がデモ
「私の故郷もチベットと同じ・・・」

 北京五輪の聖火リレーに合わせ、日本在住の中国少数民族ら約20人が長野市で街頭デモを行った。デモに参加した人々は、中国では各民族の文化や言語の使用が禁じられているなどとして、中国政府に状況の改善を訴えた。
 「チベットとまったく同じことが、私の故郷でも起こっています」
 6年前に亡命同然で来日したというウイグル人男性は叫んだ。
 ウイグル人が多く住む東トルキスタン共和国(新疆ウイグル自治区)では、チベット同様、民族特有の文字や宗教、文化を教えることが禁じられている。3月23日には女性約1000人が自治区内でデモを行い、半数近くが拘束されたと男性は訴えた。
 内モンゴル自治区から留学生として来日し、現在日本政府に政治難民の申請を行っているダイチンさんは、「今までも日本に住む中国の少数民族が協力して集会などを行ったことはあったが、ここまで大規模な抗議行動は初めてだ」と興奮気味に語った。
 「チベット問題への関心が高まっている今、中国政府の少数民族政策にも世界の目は向きつつある」とし、少数民族同士が横の連携を深めていくことも重要だと訴えた。
 中国政府への批判は、漢族からも出た。
 中国の民主化を求めている「中国民主陣線日本分部」の李松主席は、「中国に五輪を開催する資格はない。ハイエナにえさを与えるようなものだ」と、中国政府を厳しく非難した。

 
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