医療、福祉の対応で期待
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刑務所のイメージを一新した「PFI刑務所」。司法と福祉をつなぐ新しい試みが始まる=加古川市八幡町宗佐、播磨社会復帰促進センター(撮影・吉田敦史) |
JR加古川駅から北東約八キロの小高い丘陵地。甲子園球場約四個分の広大な敷地に、真新しいベージュ色の建物がそびえる。十月初め、西日本の刑務所から男性受刑者を移送するバスが次々と到着した。
「播磨社会復帰促進センター」(加古川市八幡町)。民間資金活用による社会資本整備(PFI)方式を取り入れた、全国で二例目の刑務所だ。
運営は企業六社でつくる「播磨ソーシャルサポート」。受刑者に対する拘束や懲罰などは官側が担う一方、受刑者の処遇や監視、施設警備などは民間が担当する。委託費は約二百四十七億円になるが、従来より約六億円のコスト削減になる。千人の収容人員は、全国で125%を超えた刑務所の収容率緩和につながる。
大きな特徴は精神や知的障害のある受刑者百二十人を受け入れること。播磨ソーシャルサポートのアドバイザーを務める元衆議院議員の山本譲司さん(45)=東京都=は、特別な思いでセンターの設立にかかわってきた。
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六年前、秘書給与の詐取事件で、山本さんは黒羽刑務所(栃木県)で一年二カ月服役した。命じられたのは、通常の服役について行けない障害のある受刑者や高齢受刑者の世話係だった。ほかの受刑者二人とともに、約六十人の食事や入浴の介助などに追われた。
目の当たりにしたのは、刑務所に居場所を求め、小さな罪を繰り返す受刑者たちの姿だった。
「罪を犯した障害者や高齢者を一時保護的な意味で刑務所に入れる現状は、悪循環を生む。結局は再犯を繰り返し、刑務所をついのすみかにしてしまう。死ぬまで出所できないという意味で、『棺箱(かんばこ)出所』と言われていた」
疑問を抱いた山本さんは刑期を終え、各地の刑務所を回り、異様な光景に出くわした。
大声で騒ぐ高齢で障害のある受刑者には、大量の薬を与えていた。ある刑務所では、大柄の刑務官が「三番までだぞ」と言って、子守歌で薬を飲ませた受刑者を寝かしつけていた。
「福祉や医療面で徹底した専門的処遇が必要だ」。山本さんは痛感した。
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障害のある受刑者百二十人が同センターに収容されるのは、来年一月中旬ごろになる予定だ。
各受刑者に適した作業ができるよう、刑務所では初めて、臨床心理士と社会福祉士、精神保健福祉士の専門家チームを配置する。障害のある受刑者には作業療法士も加わり、心理学的な行動療法や、社会適用訓練などの専用プログラムを作成。陶芸や農作業なども取り入れる。
ただ、現状では「高齢受刑者」という受け入れ枠はない。
「高齢の受刑者にも必要な処遇。民間ならではの福祉ネットワークを生かし、身元引受人の準備など“出口”を見据えながら広げていかなければ」と次の段階に望みをかける山本さん。
従来なかった司法と福祉をつなぐ新たな試みは、緒に就いたばかりだ。
(石沢菜々子、飯田憲)
=おわり= |