高齢者犯罪のいま −第3部 塀の中で

4.医療刑務所 (2007/12/06)

刑執行のため治療尽くす

全国に4カ所の医療刑務所。高齢受刑者増加の影響が押し寄せる=堺市堺区田出井町8、大阪医療刑務所

 足元のおぼつかない高齢の男性受刑者が、理学療法士に支えられて歩行訓練に取り組んでいる。小学校の教室と同じくらいの広さの部屋では、階段を上る人などパジャマ姿の受刑者がリハビリに励んでいた。

 独居房の医療用ベッドでは、点滴を受けながら寝たり、新聞を読んだりする受刑者に、白衣の看護師が看護に当たる。後ろから見守る刑務官がいなければ病院とほとんど変わらない。

 大阪・堺市の大阪医療刑務所は、西日本の刑務所に収容される受刑者の医療施設。医療刑務所は大阪を含め、東京・八王子、愛知・岡崎、北九州の四カ所しかない。

 一九七二年に大阪刑務所の医療専門施設として開所。八〇年代以降、透析治療を始め、集中治療室を新設するなど医療レベルも高度化。二〇〇六年には一億円近いコンピューター断層撮影装置(CT)など最新機器も整備した。

 刑務官と事務職以外に、常勤の医師が十五人、看護師が約五十人おり、職員の半数を占める。「中堅の総合病院と同じ」(法務省矯正局)設備と陣容を誇る。

 ここには治療を必要とする受刑者男女計約百二十人が収容され、一割程度が寝たきりのまま過ごす重症患者だ。

 病棟の各階にはナースステーションが設けられ、夜間は刑務官が巡回。重症者には看護師と刑務官が心拍モニターなどを見て急変に備える。

 午前午後合わせて計四時間の安静時間、疾病に応じた別メニューの食事、病状が悪化する恐れがあれば主治医などの判断で懲罰を科さない―。一般の刑務所とは比較にならない処遇だ。

 ここ数年、主に精神科を除けば常に満員で入所待ちの状態が続く。

 入所年数は長くても三―四年。病気が治れば元の刑務所に戻り、刑期を終えれば出ていくことになる。

■   ■

 法務省の法務総合研究所によると、〇六年の全国の高齢受刑者七千五百八十二人のうち、何らかの疾病があるのは65・3%に上った。高血圧症が二千百十九人と最も多く、次いで糖尿病、心疾患の順だった。

 大阪医療刑務所でも六十歳以上の受刑者が増加傾向で、全体の三割に迫る。成田良造庶務課長は「生活習慣病の増加に比例した疾病も増えた。末期がんなどで刑期途中に亡くなる受刑者も多い」と、高齢化の影響を認める。

 大阪医療刑務所が〇六年度に手がけた手術は八十五件。手術代は二百万円を超えるケースもあり、すべて公費負担だ。

 「受刑者にどこまで医療を尽くすのか」。見学した犯罪被害者の自助団体などからは、こんな意見がよく聞かれるという。

 「受刑者を健康状態に戻し、刑の執行を受けさせることが大原則」と法務省矯正局は言うが、現場の刑務官からは「公費を使って寝たきり受刑者の面倒をみていると、矛盾を感じないわけではない」と本音も漏れる。

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