寝たきり防止へ対策徹底
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バリアフリー化された施設。各棟が渡り廊下でつながっており、台車を使った昼食の後片付けもスムーズだ=広島県尾道市、尾道刑務支所(撮影・宮路博志) |
昼食が配られた。食器のふたには、「きざみ食」「全がゆ」「減塩食」などと書かれている。
食堂に集まった約五十人の受刑者の平均年齢は七十四歳。歯の悪い人がいれば、糖尿病の人もいる。それぞれの体調に合わせた食事が用意される。受刑者たちは刑務官の指示を待って、具材の原形がない中華丼やもやし炒(いた)めをかき込んだ。
広島県尾道市の広島刑務所・尾道刑務支所。中国地方では六十歳以上の受刑者で服役に配慮が必要な場合、ここに集められる。全国で唯一の専門施設だ。
昼食の時間は二十分程度。集団行動が基本だが、他の刑務所のように、全員が食べ終わるのを待たなくてよい。少し長めに食事を続ける受刑者もいれば、五分もかからずに平らげ、将棋や読書を始めた受刑者もいる。
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高齢受刑者の専門施設が設けられたのは一九八五年。工場棟や居室棟の二階部分を渡り廊下でつないで高齢受刑者専用とし、残りは一般受刑者が使う。
バリアフリー化は、十年がかりの改築工事で徹底した。手押し車を使って移動する受刑者もいるため段差をなくし、居室の廊下の真ん中には歩行補助用の手すりを設置。トイレは車いすごと入れる。風呂場の蛇口は、手の力が弱い高齢者用にとプッシュ式にした。ゲートボールなどの簡単な運動ができるよう人工芝を敷いたベランダもある。鉄格子がなければ、老人ホームと見まがうばかりだ。
服役作業は一般の受刑者より二時間短く、布わらじ編みや運送会社の荷札づくりなど、すべてが軽作業。作業中の転倒防止のため、いすには背もたれやひじ掛けをつけ、身長に応じて高さを調節できるようにした。医師のアドバイスで作った「特注品」だ。
老化を防ぐため、ソフト面でも対策が進む。太極拳や音楽など健康増進や生きがいづくりの指導を強化した。准看護師の資格のある刑務官が健康相談に乗っている。
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昼食後の片付けの最中に突然、「余計な指示をした」と受刑者同士のけんかが始まった。つかみ合いとなったが、刑務官がすぐに止めた。
「こんな小競り合いはしょっちゅう」と刑務官。高齢になると頑固な性格が強くなるのだという。争いを避けるため居室は原則として個室だ。
ただ、高齢受刑者の急増で、個室は年々難しくなっている。昨年から犯罪を繰り返した累犯の受刑者も受け入れ、集団居室を増設。今は七人部屋が四つある。
住居がなく、万引などで入所する受刑者が多いが、一人で介護をしていた親から「殺してくれ」と懇願されたという受刑者も。林隆志次長は「福祉の網で救えなかった高齢者が罪を犯す傾向がある」と分析する。
昨年、高齢者を集めた処遇について尋ねた受刑者のアンケートで、「よかった」と回答したのは六割に上った。「一般の刑務所ではついていけなかった」「同じ年齢の人といると気持ちが楽」などの声もあったという。
「さまざまな配慮は、寝たきりにならないよう出所させる刑務所の役目」と林次長は強調した。 |