高齢者犯罪のいま −第3部 塀の中で

2.養護工場 (2007/12/04)

移動困難 居室内で作業

黙々と手先を動かし作業に従事する高齢受刑者=加古川市加古川町大野、加古川刑務所(撮影・宮路博志)

 全国各地の刑務所で、高齢受刑者を集めた「養護工場」と呼ばれる作業場が増えている。身体の衰えなどで一般の服役作業ができない受刑者が増え、各刑務所が対応を迫られた結果、生まれた。

 犯罪を繰り返す累犯受刑者を収容する神戸刑務所(明石市大久保町)には、現在四カ所ある。六十歳以上の七割に当たる約二百五十人が作業する。

 ずらりと並ぶ独居房の一角にある工場。居室だったところに搬入した作業台が廊下まではみ出している。狭いスペースの中、約四十人の高齢受刑者が洗濯ばさみなどを組み立て、袋詰めにしていた。

 「刑務所は定員の120%の過剰収容。十分なスペースは取れないが、バリアフリーを意識した苦肉の策」と同刑務所。移動距離を短縮するため、居室を改造した。移動が困難な受刑者は集団居室内で作業する。その人数だけで百人に上る。

 同刑務所は今年、独自のプロジェクトチームを立ち上げた。「土いじりなど、生きがいづくりを重視したい」と、現場の刑務官が高齢受刑者の対応策を検討している。

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 「もう年ですしね。あと二、三年(の寿命)ですわ。考えてもしょうがない。コルセットを巻いても、腰や背中が痛いし、足が前に出ない。工場や運動場への行進にもついて行けなくて…」

 加古川刑務所(加古川市)で服役中の七十代後半の男性受刑者が、弱気な口調で語り出した。同席したほかの六人も次々と不調を訴え、医務官から老化防止のアドバイスを受ける。養護工場の受刑者を対象に、三年ほど前から続けている「生活指導」の時間だ。

 「介護殺人などで絶望感が大きい受刑者や、健康面で生きていく自信のない受刑者もいる。出所までに『転ばぬ先の杖(つえ)』を何本持たせてやれるか」と担当刑務官。健康増進や生活の目標設定などを中心にテーマを組む。

 高齢のため受刑者が病気になることも増えている。医療刑務所がいっぱいで移送できないことが多く、その度に地元の病院に頼み込む。入院すれば、刑務官が同じ部屋で必ず付き添わなければならない。刑務官三人が交代で仮眠を取りながら二十四時間態勢を組む。

 「一カ月以上入院することもあります。ただでさえ、人が足りないのに…」。刑務官の声は悲鳴に近い。

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 現場で増加する養護工場に、法務省矯正局は「『若い受刑者と一緒にいた方が刺激になる』という意見もあり、高齢受刑者だけを集める処遇方法には賛否両論がある」と距離を置く。「受刑者に応じた配慮は必要だが、各刑務所で収容する受刑者の特徴は異なる。現場に任せるしかない」との立場だ。

 昨年五月に「受刑者処遇法」が施行された。受刑者が抱える問題に合わせた「特別改善指導」が義務づけられ、現場の取り組みは活発化した。

 だが、高齢受刑者を対象にした内容は盛り込まれていない。効果的な指導方法は刑務所が個別に模索せざるを得ない。

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