日銀が30日、半年に1度の「経済と物価の展望リポート」を発表した。昨年10月の前回リポートに比べ、景気の下振れリスクが高まっていることを認めた内容だ。「徐々に金利水準を調整する」という利上げをにらんだ表現を引っ込め、代わりに「機動的な金融政策運営」を掲げた。この方針に沿って、景気失速を防止することに意を用いてほしい。
金融政策を判断する基になる今回の展望リポートでは、持続的な成長の継続を主なシナリオとしながら、景気の下振れを「最も注意すべきリスク」と判断した。今年に入り米経済の後退懸念が一段と強まり、国際金融市場の不確実性が高まった。さらにエネルギーや原材料価格が高騰しているのも踏まえたものだ。
政策委員の大勢による実質成長率見通しは、2008年度が1.5%と前回の2.1%から下方修正された。今回新たに示された09年度も潜在成長率並みの1.7%である。
今回のリポートでは新たに、政策委員による見通しの蓋然(がいぜん)性を集計したグラフである「リスク・バランス・チャート」を示した。それによると、08年度は1.4%以下の成長率見通しが、委員全体の予想確率分布の55%を占めた。景気下振れの可能性が高いとの判断に政策委員が傾いているのがうかがえる。委員たちの判断を分かりやすく示そうとする努力は評価したい。
白川方明総裁を議長とする政策委員会は、利上げを視野に入れた表現を削り、代わりに「機動的」な金融政策運営という言葉を採用した。日銀による英訳は「フレキシブル」であり、直訳すれば「柔軟」な政策運営となる。いざという際には利下げを排除しないという意味だろう。
もっとも生鮮食品を除く消費者物価上昇率の見通しは、08年度が1.1%と前回の0.4%から大幅上方修正され、09年度も1.0%となった。現在の政策金利(無担保コール翌日物金利)は年0.5%なので、物価上昇率を差し引いた実質金利はマイナスとなり、金融緩和の度合いは大きくなりつつある。金融面から景気の下支えを続けつつ、悪い物価上昇のリスクも念頭に置き、消費者のインフレ心理や企業の価格設定行動などに目配りすべきだろう。