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社説:日銀リポート 金利正常化の旗を降ろすな

 日銀が08年度の国内経済成長見通しを引き下げ、徐々に金利を平常水準に戻す動きをいったん休止するシグナルを出した。日本の主要輸出先である米国で景気後退の可能性が高まり、燃料、原材料価格の急騰で企業業績の悪化が懸念されていることなどが背景にあるようだ。

 しかし、短期的な成長の減速を悲観し過ぎると道を誤りかねない。「日本の金利は当分上がらない」との見方が定着すれば、国民生活や企業活動、国際的なカネの流れをゆがめるという弊害が大きくなる。日銀には、正常化の使命を着実に遂行してもらいたい。

 成長予測の下方修正が盛り込まれた「経済・物価情勢の展望」(展望リポート)は、日銀が経済の先行きをどのように予測しているかを半年に一度、公表するものだ。白川方明(まさあき)総裁下では初めてで、新体制が金利をどう動かそうとしているかを知る手がかりとして注目された。

 今回、成長率予測を下方修正したといっても、昨年10月時点の2・1%(平均値)から1・5%に落ちた程度である。サブプライムローン問題の打撃で今年前半のゼロ成長やマイナス成長が懸念されている米国に対し、日本経済は、まだまだ元気だ。

 今の日本経済を引っ張っているのは輸出だが、米国市場への依存度は年々低下しており、高い成長が続く中国や東南アジア、中東、ロシアなどの比重が高まっている。米経済の悪化による輸出への打撃はかつてほどではない。

 燃料や原材料の価格高騰による企業収益の悪化は心配だが、今の金利水準でも相当な下支えをしている。一方、物価上昇が加速する中で超低金利のままでは、預金者へのしわ寄せが増すばかりだ。例えば物価上昇率が年約1%なのに、1000万円を10年物定期に預けても、年0・7%程度の利息しかない状態は異常である。金利収入を見込んだ生活設計ができない、自国通貨での貯蓄が期待できず高リスクの外貨商品に資金が流れる、というのは経済大国として恥ずかしい。

 日銀は30日の金融政策決定会合で政策金利を年0・5%に据え置いた。ゼロ金利解除から1年9カ月たったが、0・25%の引き上げを1度実施しただけだ。緊急事態でも生じない限り、金利を上にも下にも動かす余地が十分ある水準まで、できるだけ早く戻すという旗を降ろしてはならない。

 白川日銀がどのようなスタンスで金融政策にあたるのか、世界が注目している。確かに先が見通しにくい難しい時期ではあるが、金利正常化に向けて着実に歩を進めていると受け取られることは、新体制への信頼につながり、将来への安心感ももたらすだろう。

 自信不足が今の日本経済の弱点だとすれば、その効果は大きいはずだ。

毎日新聞 2008年5月1日 東京朝刊

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