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社説:暫定税率再可決 先にすべきことがあった

 一体、衆院山口2区補選は何だったのか。むなしさを感じる人もいるだろう。改正租税特別措置法が30日の衆院本会議で自民、公明両党の賛成多数により再可決されて成立し、ガソリン税などの暫定税率は復活することになった。

 憲法59条の「みなし否決」規定に基づく再可決は56年ぶりだ。だが、異例の手段に踏み切る環境は整っていただろうか。

 毎日新聞はガソリン税の税率をどうするかよりも道路特定財源を廃止し、一般財源化するのが優先課題だと主張してきた。ただ、その立場から見ても今回は納得がいくものではない。

 いったん下がったガソリン代を戻すには従来以上に説得力が必要だ。福田康夫首相は成立後の記者会見で国、地方の税収欠陥を主な理由に挙げると同時に「無駄な歳出をなくすのが大前提」とも語った。しかし、「無駄ゼロ」「官僚の天下りの抜本是正」といってもまだ掛け声に過ぎない。再可決より先にもっと具体的に示さなければ、国民の不信は解消されない。

 首相は来年度から道路特定財源を廃止し、一般財源化する方針を近く閣議決定するという。ところが、ガソリン税の税収を今年度から10年間、道路整備費に充てる道路整備財源特例法の改正案はそのまま成立させる方針だ。その矛盾も抱えたままである。

 理由は特例法改正案を修正したくても野党が反対し、成立には再び60日間かかるからだという。だが、「野党が無責任だ」と非難する前にきちんと修正案を作り、協議を呼びかけるのが正攻法というものだ。

 民主党の対応にも問題は多い。一般財源化という点で一致しているのだから、それを確定するため、特例法の修正協議に加わり、国民のために後押しするのも選択肢の一つだと私たちは指摘してきた。しかし、すべては暫定税率を復活させた与党に責任があるというのだろう。協議に応じる気はないようだ。

 再可決に猛抗議する一方で、首相に対する参院での問責決議案提出を見送ったのも分かりにくい。決議案が可決されても福田首相は無視する構えだ。長期間、審議拒否を続けられるのか。民主党も世論の反応に自信がないのだろう。

 こんな状況が続くだけなら総選挙により政治を仕切り直しするしかない。生活に密接する税金が今回、こうして変動したのは昨年の参院選があったからにほかならない。やはり政治を動かすのは有権者だ。それを確認できた意味は小さくはない。

 野党が早期の衆院解散を求めるのは当然のこと、与党にとっても仮に議席を減らしても過半数をとれば福田政権が信任されたことを意味し、野党の国会対応も変わるだろう。首相はむしろ早く民意を問うべきなのである。そんな発想に切り替える時だ。

毎日新聞 2008年5月1日 東京朝刊

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