人間関係が希薄といわれる現代だけに、濃密な師弟関係をまぶしく感じることがある。深い師への思いを語った講演録を読んだ。
岡山県郷土文化財団が最近出した「岡山の自然と文化27」に収録されている造園家岩本俊男さんの「重森三玲 友琳の庭復元」だ。重森氏は岡山県吉備中央町出身で、昭和を代表する作庭家として名をはせた。一九七五年に亡くなり、岩本さんは最後の弟子だった。
友琳の庭は、重森氏が京都市内に造ったが、二〇〇二年に故郷の町役場中庭に移設された。庭の解体から復元まで中心となって成し遂げたのが岩本さんである。講演では「精いっぱいできた」と、師の代表作を古里に無事移した満足感を語る。
京都から運んだ石や砂などは合わせて約八十トンに上った。解体前に精密な実測図を作成し、それに基づいて狂いのないよう復元作業を進めた。ただ移築したのではないと岩本さんは話し、「重森三玲の魂をここに持ってきたいというのがあった」。
師は、仕事をすることを楽しめと教えた。弟子は心に留め「庭づくりは自分が一番楽しむもの。現場に楽しさが残る。同じ石でも楽しんだ石は楽しんでいる」と、いま自らの弟子に伝える。
「重森先生は岡山の誇り。もっと知ってほしい」。最後の弟子は講演で繰り返していた。