米政府は、シリアが東部砂漠地帯にプルトニウムを生産できる原子炉をひそかに建設し、北朝鮮がこれを支援していたとの見解を明らかにした。
北朝鮮は六カ国協議で「すべての核兵器と既存の核計画放棄」に同意しており、中東の核拡散に手を染めたことが事実とすれば、六カ国協議の合意に違反していることは明らかだ。
北朝鮮の原子炉建設協力は一九九七年に始まったとされる。施設は規模や能力が北朝鮮・寧辺にある実験用黒鉛減速炉(五千キロワット)と酷似し、核兵器用のプルトニウムを生産できる軍事用原子炉だったと推測している。米中央情報局(CIA)は、二〇〇一年には寧辺の核施設担当高官がシリアを複数回訪問し、両国の原子力担当高官が並んで写る写真も公開した。
昨年九月六日にイスラエルが空爆し施設を破壊した時点で、原子炉は完成間際にあり、北朝鮮側は被害評価などの支援も行ったとみている。シリアはその後、残骸(ざんがい)を爆破するなどの隠ぺい工作を行ったとしている。
しかし北朝鮮は核協力疑惑について「過去も現在もないし、これからもない」と一貫して認めていない。シリアも全面否定するコメントを発表した。
米国から情報提供を受けた国際原子力機関(IAEA)のエルバラダイ事務局長は、シリアと結んだ保障措置(査察)協定に基づき直ちに調査する意向を表明した。潔白と主張するなら、シリアは査察を速やかに受け入れるべきだ。
IAEAは、米側からの情報伝達がイスラエルの空爆から遅れたことに遺憾の意を表明している。当時は六カ国協議の進展が見込まれ、米国は協議の枠組みを壊しかねないとして封印したのだろう。
今回、公表された背景には、米政権内の対北朝鮮強硬派が対話路線で進められている米朝協議をけん制する目的があったとの見方が強い。
今月、シンガポールで行われた米朝協議では、シリアとの核協力などについて、北朝鮮が「米国の指摘を認識し真剣に受け止める」との表現を非公開の付属文書に記載することで、玉虫色の「暫定合意」をまとめている。中東への核拡散が、同地域の平和と安定にどんな危険をもたらすかを考えれば、北朝鮮との安易な妥協は禁物である。北朝鮮が米国に求めていたテロ支援国家の指定解除も許されなくなろう。
北朝鮮が六カ国協議で約束した「正確かつ完全な核計画申告」には、シリア核協力についても明記することが不可欠だ。
海外に出かけた日本人が二〇〇七年、千七百二十九万人と四年ぶりに減少し、危機感を抱いた日本旅行業協会が「一〇年に二千万人」の目標を掲げて新キャンペーンに乗り出した。
海外旅行者は二〇〇〇年の千七百八十二万人がピークで、米中枢同時テロや新型肺炎(SARS)の影響で〇三年は千三百三十万人まで落ち込んだ。その後持ち直していたものの、戻り切らぬまま減少に転じた。
燃料高による航空運賃上昇などが響いたとみられるが、旅行業協会は海外旅行客の年齢層に注目する。増加傾向の中高年に対し、若者は減少が目立つ。一九九六年に四百六十万人いた二十歳代の海外旅行者は、〇六年に三百万人まで減った。
パソコンや携帯電話への出費に加え、協会内にはネットの海外情報による「頭の中の旅」で実際の旅行の新鮮さが奪われているとの見方もある。
社会経済生産性本部の〇七年版レジャー白書は、従来の物見遊山的な旅行があきられつつあると指摘し、テーマ型や体験型の旅行プランを提唱している。海外を直接知ることは若者に驚きと刺激を与え、後の人生に役立とう。業界は魅力あるプランづくりに励んでほしい。
旅行業協会がもう一つ注目するのが「地方」だ。〇七年の出国者の88%が成田、関西、中部国際の三空港に集中している。協会は、地方空港の需要を掘り起こす余地があるとし、自治体と連携してPRに力を入れていく考えという。
海外便は地方空港にも多く就航し、岡山空港には先日、五番目の国際線として香港線が加わった。協会の目指す地方空港の活性化は地域にとっても重要な戦略になろう。定期便に加えチャーター便も積極的に活用し、需要を喚起してもらいたい。
(2008年4月30日掲載)