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福田康夫総理の訪露
時宜に適った「積み重ねの確認」
FujiSankei Business i. 2008/4/30

福田康夫総理とプーチン・ロシア大統領が4月26日にモスクワ郊外の大統領公邸で会談。その成果を今後の北方領土交渉にどう生かすかが日本の対露外交の正念場だ(ロイター)
福田康夫総理とプーチン・ロシア大統領が4月26日にモスクワ郊外の大統領公邸で会談。その成果を今後の北方領土交渉にどう生かすかが日本の対露外交の正念場だ(ロイター)
 
 4月26日、モスクワのクレムリン宮殿で福田康夫総理とプーチン・ロシア大統領が会談した。筆者は、所与の条件下、福田総理は取れるだけの内容をロシア側から取ったと評価している。外務省で対露戦略のシナリオを作るのは、欧州局ロシア課長である。武藤顕ロシア課長にとって、初めての大仕事だったわけであるが見事にこなした。

 まず、このタイミングで、公式訪露を行ったことが正しい。日露関係にとって、日本側にとって最も有利な外交文書が2001年3月に森喜朗総理(当時)とプーチン大統領が合意した「イルクーツク声明」である。イルクーツク声明では、「1993年の日露関係に関する東京宣言に基づき、択捉島、国後島、色丹島および歯舞群島の帰属に関する問題を解決することにより、平和条約を締結し、もって両国間の関係を完全に正常化するため、今後の交渉を促進することで合意した」と領土交渉の土俵が、北方四島であることを確認した。さらに「56年の日本国とソヴィエト社会主義共和国連邦との共同宣言が、両国間の外交関係の回復後の平和条約締結に関する交渉プロセスの出発点を設定した基本的な法的文書であることを確認した」と56年日ソ共同宣言の法的効力を文書で確認した。

 日ソ共同宣言では、平和条約締結後の歯舞群島、色丹島、2島の日本への引き渡しをソ連が約束している。しかし、60年にソ連が日本領土からの全外国軍隊の撤退、すなわち日米安全保障条約がある限り、2島を日本に引き渡さないという条件をつけ、約束を一方的にほごにした。ソ連とロシアの指導者の中で初めてプーチン大統領が共同宣言の法的効力を明示的に確認した。共同宣言の有効性を確認することは、法的には当たり前のことだ。しかし、「当たり前でない」状態を「当たり前」にしたプーチン大統領の政治決断は高く評価されるべきだ。

 有識者の一部に「とりあえず2島論に反対する」と、平和条約交渉における日ソ共同宣言の意義をおとしめることを意図する勢力がある。日ソ共同宣言で平和条約交渉の締結について合意されているのは、日本側が北方四島を要求したからである。平和条約が締結したら少なくとも歯舞群島、色丹島は日本に返還されるという担保をとったのが日ソ共同宣言なのだ。日露両国は、平和条約を締結することには合意している。このことは、ロシアが少なくとも歯舞群島、色丹島の2島の日本への返還を約束したと日本側は解釈し、さらに国後島、択捉島の日本領への帰属確認を求めていけばよい。

 今回、プーチン大統領は福田総理に対して、「これまで積み重ねてきた話し合いの上に、今後も交渉を進めていきたい」(4月27日付産経新聞)と述べている。プーチン大統領が「これまで積み重ねてきた話し合い」という場合、北方領土問題については、イルクーツク声明を念頭に置いていることは間違いない。さらに福田総理はメドベージェフ次期大統領(第一副首相)とも会談し、プーチン路線が継承されることについても言質をとっている。このタイミングで福田総理が訪露した意義はここにある。これで、北方領土問題を段階的に解決する可能性が生まれた。武藤ロシア課長を中心とするチームならば、メドベージェフ次期大統領が関心を示すシナリオを描くことができると思う。懸念されるのは、「とりあえず2島論に反対する」と主張する勢力が段階的解決論に反対して、外務省に圧力をかけてくる可能性だ。

 外交面でも成果がある。北朝鮮の拉致問題解決にロシアの協力を要請するとともに北朝鮮によるシリアへの核拡散疑惑を首脳会談の俎上(そじょう)に乗せたことだ。日本はシリアの友好国で、ロシアはシリアに兵器を販売している。その両国がシリアを名指ししたことがもつ意味も大きい。本件について、日本はイスラエルとの連携を強め、「新移民(旧ソ連諸国からのイスラエルへの帰還者)」がもつロシア政界との人脈も用いて(この人脈はメドベージェフ氏と良好な関係にある)、拉致問題の解決にロシアの潜在力をもっと活用していくことだ。

 日露青年交流を100人規模から500人規模に拡大する合意ができたことも、今後のロビー活動の可能性を広げることになるので歓迎できる。もっともロシア側もこの枠を用いて、領土問題についてロシアに有利な状況を作るべく画策するであろう。今回の福田総理訪露の枠組みでできた可能性をどう生かすかが日本の政治家と外交官に問われている。

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 同志社大学大学院神学研究科修了。外務省入省。ソ連崩壊を挟む1988年から95年まで在モスクワ日本大使館勤務の後、本省国際情報局分析第一課へ。主任分析官として活躍したが、2002年5月、背任などで逮捕。05年2月に執行猶予付き有罪判決を受けて控訴中。著書に「国家の自縛」(産経新聞社)など。46歳。東京都出身。


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