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「在宅」を支える 県内・高齢者ケアのかたち
 慢性的な病気や不治の病を抱えて自宅で過ごす患者を支える人たちがいる。医師、訪問看護師、ケアマネジャー、ホームヘルパー、病院、地域住民、そして家族。後期高齢者医療制度(長寿医療制度)が4月からスタートするなど、お年寄りを取り巻く医療環境が大きく変わる中、それぞれの立場に光を当てながら、「在宅」の現状と課題を追ってみる。

 秋田市下北手。自室のベッドから起き上がった石塚ハルエさん(80)が、訪問診療を終えた市原利晃医師(38)の手を握ったまま離さない。

診察を終えた市原さん(左)の手を握り、感謝の言葉を連ねる石塚さん(中央)。右は加賀屋さん=秋田市下北手の石塚さん宅

 「ありがたくて、いつも拝んでいるんだよ。先生のような立派な人に診てもらえて本当に幸せだ。ほかの人にも分けてあげたいぐらい」。石塚さんの目に、うっすらと涙が浮かぶ。市原さんは「居心地が悪くなってきたなあ。こんなに褒められるなんて、結婚式以来だ」と、しんみりとした場を和ませた。窓からは柔らかい春の陽光が差し込む。

 石塚さんに食道がんが見つかったのは昨年11月。拒みに拒んだ末、周囲に説得されて入院したが、本人の強い希望で1カ月後に退院。その際、病院の主治医に紹介されたのが、秋田大医学部付属病院を辞め、県内初の在宅訪問診療専門のクリニックを始めたばかりの市原さんだった。

 「秋田往診クリニック」。名義上の所在地は自宅のある同市広面だが、“診察室”は車で片道30分圏内の患者宅。患者は原則、医療機関から紹介を受けた人だ。

 専門は消化器外科。検査機器が限られているため、診断の難しい超急性期の病気には対応できないが、ほとんどは自分で診る。簡単な手術なら患者宅でも行う。がんなどの痛みを和らげる術も市原さんの守備範囲だ。

 医学の進歩に研究と治験の積み重ねは欠かせない。市原さんも、その使命を担っていた。だが、この大義を臨床現場に持ち込むと、目の前で病気と闘う患者が、将来誰かを治すための患者になってしまうこともある。病気に向き合うか、患者と向き合うか。在宅医療ならば、より患者と正面から向き合える。市原さんはそう考えた。

 患者は40人余り。認知症など慢性期の疾患が半分、石塚さんのように積極的治療を終えたがん患者らが半分。定期の訪問診療はもちろん、急変時には24時間態勢で往診する。自宅でみとった患者は半年で15人を数える。

 人生の最期を住み慣れたわが家で迎えたい―。患者の願いをかなえるためには、家族の支えも欠かせない。

 石塚さんを世話する姉の加賀屋ミエさん(82)=同市将軍野=は「体力的にもきついが、妹が弱っていくのを見るのが何よりつらい。家族の負担を思うと、私だったら病院を選ぶでしょうね」と話す。

 だが、「在宅」は家族にとってつらいことばかりではない。入院当時、22キロしかなかった石塚さんの体重は一時、30キロまで増えた。見舞客には身なりを整えて出迎え、家の中であれば何とか自力で歩けるようにもなった。車いす姿だった退院時とは見違えるよう。どれもこれも石塚さんに起きた“奇跡”だ。

 「在宅が一番だとは言わないが、少なくとも患者にいい時間を過ごしてもらうことはできると思う。大事なことは患者と家族に選択肢を用意すること。残念ながら、医師にも市民にもまだまだ在宅医療が理解されていない」。市原さんは現状をこうみる。

2008.4.30付

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