平成19年度 地球シミュレータ利用報告会
1. プロジェクト名
カーボンナノチューブの特性に関する大規模シミュレーション
2. プロジェクト責任者名
南 一生
3. プロジェクトの目的
カーボンナノチューブ(以下、CNT)はナノテクノロジの基幹材であり、その特性把握は激しい国際競争となっている。本研究は、技術的に難しいナノスケール実験に代わり、地球シミュレータを利用する大規模シミュレーションにより、産業界などが必要とするCNTの機械的、熱的、電子的な諸特性を明らかにする。さらに高品質CNTの生成、改質・加工などの応用プロセスシミュレーションを通じて新物質・新機能創製に関する基本情報を提供し、しかもそれらを戦略的知的財産として我が国のナノテクノロジの国際競争力の維持確保を支援することも目的としている。
4. 今年度当初の計画
- (1)素材特性の把握及び新奇構造、機能発現の探索:
カーボンナノチューブの特性に関し、単体の基本的特性の把握を完了し論文として纏める。これらの基礎特性に基づき、バンドル複合体の熱、機械、電子的特性等について大規模シミュレーションを拡大し、エネルギー機能性素材等への応用を目指す。またマッカイ型炭層構造材について実現と理論検証を目指す。さらに炭素系室温超伝導に関して、新ダイヤモンド複合構造における高温超伝導についての原子数約数千個の大規模シミュレーションを行い、その応用性を明らかにする。加えて、新しい機能性探索シミュレーションとして、ナノチューブと高分子(DNA等)との新奇機能物質(バイオ-ナノ)について、その電子伝導性に着目した第一原理輸送モデルによる原子数数百個の中規模シミュレーションを行い、特性と応用性を明らかにする。
- (2)次世代電子デバイスへ応用:
エレクトロニクス材料、デバイスのナノ加工技術に繋がるナノ炭素構造の転換を念頭に置き、グラファイト構造のAr多価イオン照射による転換のシミュレーションを実施する。またCNTとチタン金属界面の電子状態計算を発展させ、電気伝導のシミュレーションを実施する。
- (3)高品質ナノチューブ生産プロセスの制御因子の特定:
古典分子動力学手法をまず地球シミュレータに最適化し、大規模、長時間シミュレー ションし、カーボンナノチューブ生成メカニズムに及ぼす制御因子を明らかにする。また、第一原理計算を導入して、制御因子を電子論の立場から詳細に把握する。
- (4)オーダN法第一原理計算手法等のアルゴリズム改良、高速最適化に向けたモデル高度化:大規模化研究を進行する。
5. 今年度得られた成果、および達成度
成果
- 1)素材特性の把握及び新奇構造、機能発現の探索:
カーボンナノチューブ単体の基本的特性について論文に取り纏め、投稿準備中である。エネルギー機能性素材への応用として、カーボンナノチューブに結合させた遷移金属(Ti~Zn)の水素吸着のシミュレーションを実施し、各遷移金属のカーボン結合、水素吸着に関わる特性を明らかにした。また新機能性探索の一環として、ナノチューブと高分子を結合した物質の電子伝導性を大規模シミュレーションするモデルを開発中である。マッカイ型炭層構造材については、異なる大きさの2タイプのマッカイ構造を、カーボンナノチューブから生成するパスが存在する事を突き止めた。現在、その内の一つについては、結合エネルギーのシミュレーションまで終了し、マッカイ構造が安定に存在する事を確認した。ボロンをホールとして含有させたダイヤモンド複合構造(薄膜構造)の高温超伝導体に対して、電子間の直接クーロン相互作用の時間依存性を取り入れ、より精度を高めた、また対象とする原子個数を拡大した大規模シミュレーションを実施し、ボロン濃度と超伝導温度との関係を得た。
- (2)次世代電子デバイスへ応用:
近年のフェムト秒レーザーを用いた実験では、高強度のパルス光にて、物質構造変化を誘起できることが報告されている。次世代電子デバイスシミュレーションのために地球シミュレータ上で開発された時間依存密度汎関数理論による励起状態ダイナミクスの計算プログラムを改良し、高強度パルス光に対するナノカーボンの応答を計算するプログラムを開発した。現時点で計算プログラムの数値安定性に対する確証を得た。
- (3)高品質ナノチューブ生産プロセスの制御因子の特定:第一原理のプログラムを使用しカーボンナノチューブの初期生成の挙動に関するシミュレーションを実施した。第一原理(Pwscfコード)で得られたカーボンと触媒間の相互作用についての結果を、古典分子動力学計算の精度を高めるためのポテンシャル開発に反映させた。
- (4)オーダN法第一原理計算手法等のアルゴリズム改良:高速最適化に向けたモデル高度化を実施した。
達成度
- (1)素材特性の把握及び新奇構造、機能発現の探索:120%
- (2)次世代電子デバイスへ応用:50%
- (3)高品質ナノチューブ生産プロセスの制御因子の特定:50%