――ベース作りができていてこその次のステップ、という部分もありますもんね。『ちりとてちん』で落語に魅せられた人も増えたと思うんですが、落語初心者にアドバイスがあれば教えていただけますか。
「(立川)志の輔師匠も雑誌のインタビューで言ってましたけど、とりあえず1回、生で見て欲しいんですよね。しかもいいやつをね。寄席の新宿末廣亭とか、僕好きなんですよ。いきなり独演会行ってしんどいのをずーっと聞いたら『えーっ』てなっちゃうから、漫才とか紙切りとか入ってるような寄席なんかはおすすめだと思うんですよね。で、やっぱり落語って、見る人聞く人にすごく余白を残してる芸だと思うんで。受け手がいろいろ想像できるっていうのも、体験してもらいたいなっていうのはあるんですよね。年取ってからの感じ方も違いますからね。それこそ20代で聞くのと30代で聞くのと、自分の中でその落語に対する面白さが違ったりしてびっくりしたりするんで。余白を楽しむっていうか、そこを面白いと思ってもらえれば」
――噺家さんによっても印象がまったく変わりますもんね。吉弥さんご自身の落語との出会いはいつ頃ですか?
「落語は、大学の落研入るまで全然興味がなくて。小学校の教師になりたかったんで、教育学部に入ったんです。でも芝居とか好きで見てたんで、演劇部入ろうかなとか軽く思いつつ飯食ってたら落研の人に誘われて、観に行ったらすげえ面白かって。先輩方がやってる新入生歓迎会を観に行って、『へえー、1人でできんねや、こんなんが』ってカルチャーショックを受けて、虜になったんですよね」
――もともと人を笑わせるのがお好きだったとか。
「あ、でも好きでしたね。後から考えると、小学校の頃とか落語家ぽいことはやってるんです。みんなの前で座布団に座って家で読んできた『吉四六さん』じゃないけど、とんち話みたいなもんをやったりしてるんですよね。中3のときには『ロミオとジュリエット』で道化役やったりとか。落語っていうチョイスは全然なかったんですけど、落研に入って素人でやるようになって、先輩からプロの人の落語観に行くかって誘われて行って、『ああ、おもろいな、やる人によって全然ちゃうねや』って思いまして。その時に(桂)吉朝の落語に出会うんですよね」
――他の方とはひと味違う魅力が?
「違いましたね。誤解を恐れずに言うと、結構不親切な落語やったんです。『みなさんわかりますかー?』っていう感じじゃなくて、『わからんやつはええよ』みたいな。大阪落語って結構サービス精神旺盛なんで、枕*1の部分で『テレビ出てますねん、見てもろてますか』みたいに、みんなが笑えるようにするんですよ。まあその作業も大事なんですけど、うちの吉朝さんちょっとひねくれたとこもあるので、『わからなかったらいいよ』みたいな。それがまたくやしいわけですよ、お客としては。『こいつは通だけ聞けみたいな感じやけど、じゃあ俺もわかってやれ』みたいな」
――そこですっかり吉朝さんの虜になられて。
「通うようになって。小学校の教師になるんで教育実習とか行くんですけど、『これは大変やな、とてもこんな責任のあるような仕事は俺は無理やなあ』と思って、どんどん落語家としてやりたいなと。素人ながらもやったら老人ホームで受けたりとか、学祭でやったらおもろいって言われ、自分としてはできるんじゃないかと高まっていくじゃないですか。で、まあ師匠のとこに行くんですけどね」
|