NHK朝の連続テレビ小説『ちりとてちん』とは、福井県小浜市の若狭塗ばし職人の家で育った、弱気でマイナス志向のヒロイン・和田喜代美(貫地谷しほり)が、大阪で女流落語家を目指す姿を描いた作品だが、その緻密な演出と落語の演目をうまく織り込んだストーリー展開にハマる人が続出、公開イベントをやれば応募が殺到、続編を望む声がやまない人気ドラマとなった。上がり症で大事なところで噛むというくせを持つ落語家・徒然亭草原を演じた桂吉弥は、2004年のNHK大河ドラマ『新選組!』の出演で一気に知名度を上げ、さらに今回のちりとてフィーバーで落語会、取材、生放送にと全国を飛び回る毎日。そんな超多忙な彼をなんとか大阪でキャッチ、お話を聞かせていただけることに! 写真撮影の合間にも、通りすがりの女性から「草原さーん」と役名で声がかかる姿に、その人気を改めて実感。『ちりとてちん』の裏話から、自身の落語に懸ける熱い想いまでを余すところなく語っていただいた。ちりとてゆかりの地でのショットや、貴重な落語パラパラ写真と共にじっくりご堪能あれ!
――怒濤の撮影期間だったと思いますが、今振り返られてみていかがですか。
「ほんとに素晴らしい体験というか、連続テレビ小説に出していただけたっていうのがまずありがたいですね。それから上方落語をテーマにした作品で、落語家の役で出れるっていうのが2つ目。また、藤本有紀さんの脚本がすごく素晴らしかったので、それが3つ目で。で、あとはやっぱり共演者の人たちがね。僕は今までそんな経験ないですけど、打ち上げでベテランの役者さんたちがみんな『こんな嫌な人がひとりもいない現場ってなかなかない』って言ってらして」
――チームワークの良さが画面からも伝わってきました。 表情もとても自然で、普段の仲の良さがにじみ出ている感じがして。
「撮影が始まるまでに知ってたメンバーってほとんどいないんですよ。僕が茂山宗彦くんと仕事したことがあるっていうだけで、でも彼とはそんなにプライベートのお付き合いもなかったですから。やっぱり大きいのは、貫地谷しほりっていう人がすごく、なんちゅうんやろね、気さくっていうか……」
――いるだけで明るくなるような雰囲気を持ってらっしゃいますよね。
「そうなんですよ。でも礼儀ができてないとか、目上の人に敬意を払わないっていうことをすっごく彼女嫌がるんで。だから最初もちろん敬語なんですけど、ある時から『あ、この人はこうやって信頼のおける人やねんな』とか『仲間なんだな』みたいなことになってくると、すごくかわいく、彼女らしい明るさが出てきて。でもやっぱり脚本ですね。これは役者の方みんな言いますけど。本がいいとスタッフもやる気になるし、それは別に視聴率とかじゃなくて、ものを作る人間として、一番最初の地図っていうんですかね。それが明確にぼーんと出ると、みんなやっぱり作る人間やからわくわくするじゃないですか。だから、モチベーションが全部一緒になるんですよ。僕はそんなに経験ないですけど、本がダメだったらこれを目標にとかあれを目標にとか、それこそ露出が上がればいいやとか、そうじゃなくてほんとにこのいい本をなんとかして世に出したいというか、見てる人に伝えたいというテンションがぐっと固まるんで。だから江波(杏子)さんとか、リハーサル室でまだ扮装もなんもしてないのに、徒然亭の芝居見て泣いてくださったりとか。最初は和久井(映見)さんとか、僕らほんとに福井の人たちとは接点なかったんですけど、6週7週ほんとよかったですとか言ってくださったり。僕らは僕らで福井チームの芝居はええな、とかね。相乗効果で」
――視聴者の立場でも楽しめるって、素敵なことですよね。今回は落語家さんの役ということで、特に意識された部分などありますか?
「以前の『新選組!』とか、他の舞台をやらせてもらってる時は、自分のことだけ考えてたらいいと思ってたんですよ。今回話をもらった時に、ちょっと今までと違うなっていうか、落語家として上方落語会のことを考えて、オブザーバー的なっていうか……そういう俺も必要じゃないかなってちょっと考えたんですよ。でもすぐに、『いや、それはしんどいな』と思った(笑)。広く見るのは林家染丸師匠っていう方がちゃんといてはって、全員の落語の指導もちゃんと細やかにやってくださっていたので、いや、これは俺は俺のことに集中させてもらった方がいいんじゃないかなと思って。僕がそういうふうに関わることで、作品が面白くなったり、草原っていう人に興味を持ったお客さんが落語を見に来たくなるとかっていうことにつながればいいかなと思って。そういうスタンスにしていきましたね」
――本物の落語家さんがいるということで、他の役者さんたちの精神的なよりどころになられた部分もあったんじゃないですか。
「あ、それはよく言われますね。現場でちょっとした瞬間に、『吉弥さんここなんですけどなまってませんか』とか、『ちょっと見てください』みたいなのは随時言われてましたね。常にいてるっていうのがね」
――『ちりとてちん』での経験が落語に生かされた部分もありましたか?
「勉強になりましたよ。渡瀬(恒彦)さんの芝居とか貫地谷ちゃんの芝居とか。貫地谷しほりちゃんの場合はね、何やってもいいんやなっていうか、彼女ずーっと一緒に横でやってて。泣きの芝居なんですけどね、子供みたいにね、こうやって両手で涙を拭って*2(ポン、と手をひざに置く)『がんばります!』ってやったんですよ。それ見たとき、うわー、すごいなと思って。僕がドラマでやる芝居も正解ってのはなくて、落語もやりたいことをもっとやらないとっていうか、せっかくお金出して見に来てもらってるお客さんに、もっといろんなものを見せれるんじゃないかなと思ったんですよね。渡瀬さんは頭ん中でこの芝居どうしようかなってプランが2個浮かんだら、絶対難しいほう選ぶんですって」
――深いですね……!
「深いです。それは演技プランのことで話しはりましたけど、例えば僕が落語会でいつもやり慣れてるネタとこっちのネタとどっちにしようって迷ったときとかね。いろんな部分でそれは応用できるっていうか、指針にできる言葉だなって思ったんですよ」
――確かに、人生の指針になる言葉でもありますよね。吉弥さんは古典落語をされていますが、創作落語に興味はおありですか?
「作るなら今だと思うんですけど、なかなかさぼりなんで(笑)。例えば『ちりとてちん』に出てきた落語って、僕全部できないんですよ。『鴻池の犬』も『二人ぐせ』も、『辻占茶屋』もやったことない。ほんで、古典落語で身につけたほうが俺自身はいいと思ってるっていう――言ったら、シェイクスピアの役者が作品を並べたりとか、歌舞伎役者がこれやってこれやって、でもあれはやってない、みたいなもんで、今37ですけど素養として40ぐらいまでには一応クリアしとかなっていうようなネタがまだあるんで、そっちをやらないとっていうのがあるんですよね」
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