中国の胡錦濤国家主席が訪れる予定の法隆寺、唐招提寺に、受け入れ中止を求める電話などが相次いでいる。チベットで仏教徒を弾圧する中国の指導者はふさわしくないといった内容だ。両寺では、主席を受け入れる方針だが、同じ仏教徒だけに複雑な思いを明らかにしている。
■善光寺の辞退「決定は正しいと思います」
新聞各紙によると、国賓として2008年5月6日に来日する胡錦濤主席は、10日午前中に法隆寺、唐招提寺を訪れる予定になっている。法隆寺では、境内を見て回るなどして参拝し、唐招提寺では、開祖である中国の渡来僧、鑑真のお墓参りなどをする見込み。
ところが、長野市の善光寺が聖火リレーの出発地を辞退した4月18日から、両寺に逆風が吹き始めた。2ちゃんねるのスレッド「法隆寺・唐招提寺は胡錦濤を門前払いすべき」やまとめサイトの項目ができ、ミクシィでも20日、「法隆寺・唐招提寺における胡錦濤の政治利用を阻止しませんか」というコミュニティが作られた。この呼び掛け人は、「折角、善光寺が決断してくれたのに、日本の仏教のアピールが消えてしまうかもしれない」として、両寺に電話やFAXなどで胡主席の受け入れ中止を求めることを促している。
両寺でも、実際、善光寺の辞退表明後、こうした電話などが相次いでいる。法隆寺では、1日2〜3件、唐招提寺では、ここ1週間で20件以上、電話が来ているとしている。
しかし、両寺は、予定通り、胡主席を受け入れる方針だ。法隆寺、唐招提寺の担当者は、それぞれ「私どもには国賓として来られるので、お断りするのはいかがかなということ」「開祖が中国の鑑真和上なので、お墓参りと言われると拒否できない」と説明する。
ただ、チベットの人たちと同じ仏教徒だけに、複雑な心境のようだ。両寺の担当者とも、「中国の方とダライ・ラマが対話して、平和的に問題解決するよう願っています」と話している。
善光寺の辞退決定については、唐招提寺の担当者は、踏み込んだ評価をした。「決定は正しいと思います。ここの寺も、日本の人が開祖なら、(胡主席の)受け入れを拒否していると思います」。法隆寺では、「評価するかどうかは個人の問題。寺としては、なんとも言えない」と話す。
■当日に何らかの活動を行おうとする動きも
胡主席が両寺を訪れる5月10日は、何らかの活動を行おうとする動きが出ている。ミクシィでは4月20日、「5月10日に奈良で『何かをする』トピ」というコミュニティが作られた。当日は、表立った抗議活動なら警察に排除される可能性があるとして、仏閣で僧侶の講話を聞いたり、キャンドルライトを灯したりしたいとしている。
一方、奈良の僧侶からも動きが出始めた。密教系寺院の僧侶ら20人でつくる「南都二六会」の橋本純信会長は、5月10日当日に、橋本会長が住職をしている十輪院で、チベット犠牲者の追悼法要を行う方向であることを明らかにした。橋本会長は、両寺に対し、「(胡主席を)受け入れてほしくない気持ちは強い」としながらも、「同じ奈良の寺同士なので、抗議活動はやりにくい。そこで、これに代わる意思表示として、法要を呼び掛けることにしました」と語る。
ただ、僧侶だけに集まってもらい、一般参加は断る方針だという。「どういう方が来られるか分からないですし、嫌がらせも考えられます。突然来られれば、寺の周囲に迷惑をかけるかもしれない」と橋本会長。
胡主席来日を前に、中国の外相が4月20日に法隆寺、唐招提寺を視察した際は、抗議とみられる市民の姿もあった。毎日新聞の21日付記事によると、法隆寺の南大門前では、参道沿いに、チベット旗のTシャツを着た人がいたり、「FREE TIBET」と書いた自転車に乗った男女数人のグループがいたりした。
長野市内で4月26日に行われた聖火リレーでは、沿道から飛び出すなどして逮捕された人もいた。それだけに、両寺とも、警察による厳重な警備を見込んでおり、関係者は、警戒を強めている様子だ。
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