2008年01月30日

「医師失格」の小さな反響(11):政治評論家 本澤二郎

 先日、宮城県の伊藤さんからFAXが届いた。仙台地方裁判所に送付されてきた鑑定書のコピーである。鑑定人のT・Sが昨年12月20日に作成、それを裁判所が受け付けたのが今年に入った4日である。年末年始とはいえ不思議と遅い。この間に何があったのか、素人は首をひねってしまう。伊藤さんも「私までに1ヶ月もかかっている」と疑念を抱いていた。


 「鑑定はカルテの記録を無視している」「鑑定人は意図的に医師をかばっている」と被害者家族が怒りをみなぎらせて当然だろう。
 筆者も知らない薬が羅列するので理解ができないのだが、鑑定結果では被害者家族が指摘している投薬ミスについて、それによる「心停止の可能性は否定できない」と容認しながら、他方、それだけでは「十分説明ができない」とあいまいに逃げる。「可能性は否定できないが、それ以外の要因の可能性もあるかもしれない」といって、病院と医師を確かにかばっている。「投薬量と観察時間が適切だったのか」という問いかけにも「判断は困難である」とこれまた逃げている。所詮、同じ穴のムジナだからであろう。
 せっかくの鑑定も、被害者から依頼された善良な医師によるものでないと、公正・客観的な医療裁判は困難なのだ。
 伊藤さんは「北口弁護士と連絡を取りたい」と要請してきたのだが、あいにく電子メールでのやりとりだからお手上げである。岡山県の佐藤さんに助っ人を頼んだのだが。彼女の方は東大の埴岡さんと連絡をとりたい、といってきた。
 伊藤さんの嘆き節も胸を打つ。「想像していたとはいえ、医師同士のかばい合いには被害者として涙もかれ果てました。これでは事故はまだ続きます」といって泣いている。

 佐藤さんも年初にご主人の入院経過をFAXしてきた。散歩中に左足に脱力を感じ3日後に倉敷中央病院へ。CTとMRIの検査で「中大脳動脈閉塞」と診断。「予防のためのバイパス手術を勧められて、手術日を決めていったん退院。
 自宅で軽い手の震えが出たので早めの入院。手術前の脳血管カテーテル検査で、今度は「もやもや病」と診断される。そして予定日にバイパス手術。執刀医は「うまくいった」と説明を受けたが、患者の右頭部がはれ上がり、右目も真っ黒にはれ、潰れて開かない。翌日「左半身麻痺」と宣告を受ける。手術ミスであろう。患者は「手が腐っている。動かない」と号泣。この間、ほとんど主治医の説明はない。翌々日に緊急手術である。わが息子の対応に似ているではないか。
脳圧を下げるために頭蓋骨をはずす手術である。午前11時すぎから午後4時までかかる。「成功」と知らされる。ところが、その3時間後に再び緊急手術である。バイパスのチューブが詰まったとの説明があった。ということは、バイパス術も失敗だったのだろう。診断ミスは、泥縄式の治療が延々と続くのである。
4日間で3回の脳手術、しかも高熱と意識不明の状態が数ヶ月。高熱はばい菌が脳に潜んでいるからではないのか。そうだとすると「もやもや病」を知らないが、息子の脳膿瘍と似ていないだろうか。息子も正しい診断をしていれば、ばい菌を吸い取り、抗生物質で退治すれば済む。あるいは脳の減圧手術で膿をとって抗生物質で菌をやっつければ済む病気である。鈴木俊一元環境大臣は「安倍晋三のお兄さんも同じ病気をしたが、むろん、元気でいる」と語っている。治療の格差も存在する日本に気付く必要があるのかもしれない。
長期間の入院は患者にいろいろな、新たな病気を発生させるものである。これの予防はリハビリが何よりも重要なのだが、現在の日本の医療現場では脇役に追いやられている。そのため、運良く健康を取り戻せる患者でも社会復帰できないでいる。

深刻なことは、伊藤さん、佐藤さんなど医療ミスの被害者家族の心労は、それはただごとではない、という現実に政治も行政も対応していないことである。それをよいことに日本医師会は、被害者の苦悩に蓋をかけているのだが、当事者にならないと、こうした苦悩が理解してもらえないところに医療過誤がなくならない風土が存在している。

最近の事例にこんなことがあった。自衛隊員の家族向けの新聞に「医療事故の年間推定死亡事故は最大で4万6000人と専門家が指摘している」と書いたら、さる病院の眼科部長が「おかしい」と編集長に抗議してきた。
どうやら、自衛隊員という特別な任務の集団に、医師の名誉を傷つけるような報道はまかりならぬ、ということのようだった。改めて傲慢で、謙虚さがなさすぎる医師という職業に腹がたったものである。
そういえば、森医師の統計学的な医療事故推定死亡数は、多くのマスコミは報道していないらしい。筆者は東京新聞の特集で知ったのだが、こうした報道は全国民に伝える必要があろう。人間性のある医師こそが求められている。うそ・隠蔽をしない人間性のある医師を大量に誕生させることが、今の日本では大事なのではないだろうか。

千葉県四街道市の幼稚園経営者は、胃潰瘍で入院「薬で治るかも」といわれながら、検査中に亡くなってしまった。明白な医療過誤でありながら、病院は裁判で争っている。被害者家族が病弱な妻と娘だからではないのか。ついている弁護士はまだ、医療事故裁判の経験がない。暗中模索といったら語弊があるが、専門弁護士がいかにも少ない。
筆者でも友人弁護士が医療の明るいという弁護士を推薦してくれたことがある。折衝してみると、当方の説明だけで「無理」と断られた。北口弁護士とは正反対の医療専門弁護士にがっくりときてしまった。法律専門大学の卒業者でもこの程度である。そうでない被害者の苦悩ははかりしれないだろう。
一人でも多く声を上げるしか方法はないのである。
2008年1月29日記


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