個人情報保護法が全面施行されてから3年がたつ。この間、個人情報が漏えいする事例は相変わらず頻発する一方で、市民生活に必要なはずの情報の提供を企業や役所などが拒むケースが後を絶たない。
重い脳障害が残る幼児の母親が出産時の医療ミスを疑い、大学病院に調査報告書の開示を求めたが、拒否された。財団法人が天下り役員として受け入れた元社会保険庁長官らの最終官職を非公開にし、名簿には学識経験者と記載した……。個人情報保護法が情報提供拒否の理由に使われた例は枚挙にいとまがない。
なぜこんな弊害ばかりが目立つようになったのか。保護法が、原則として本人の同意なしに個人情報を第三者に提供することを禁じ、提供できる例外として生命・財産の保護に必要で本人の同意を得るのが困難な場合などと限定したためだ。個人情報は何でも表に出してはならないという誤解に基づく「過剰反応」と、個人情報保護を隠れみのにした「情報隠し」がはびこる事態を招いてしまった。
国会は法成立時に「全面施行後3年をめどに必要な措置を講じる」と付帯決議した。私たちはこれまで、問題の解決には法律そのものの改正が不可欠だと再三にわたって主張してきた。ところが政府は、その必要な措置は法改正ではなく、法の運用指針である「基本方針」の一部変更で足りると判断した。極めて残念な結論だ。抜本対策にはほど遠いと言わざるを得ない。
閣議決定された新たな基本方針は過剰反応の問題が起きている現状を認め、「個人情報の有用性に配慮しつつ、個人の権利利益を保護する」(第1条)という法の目的について「国は事業者や国民に対する広報・啓発に積極的に取り組む」という。しかし、広報・啓発だけで過剰反応がなくなるとはとても思えない。有用性を重視し、第三者提供できる例外規定を大幅に広げるなどの法改正が必要だ。
さらに、役所などによる行き過ぎた情報隠ぺいは一掃しなければならない。不祥事を起こした公務員の名前を匿名にしたり、不祥事そのものを隠したりする事例が一気に広がった。それだけではない。女性の下着を盗んで懲戒免職になった小学校教諭の氏名公表を被害者が望んだにもかかわらず、教育委員会が「被害者の希望」と虚偽の説明で匿名発表するような悪質なケースまで起きている。
にもかかわらず基本方針は、行政機関も必要性が認められる場合、個人情報の公表は可能で「適切な運用を図る」と明記したにとどまる。これでは不祥事隠しがなくなるはずもない。公務員に関する情報は幅広く提供するような条文を新たに設けるなど、身内の不祥事隠しを許さない策を講じるべきだ。法改正へ方向転換するよう政府に改めて求めたい。
毎日新聞 2008年4月30日 東京朝刊