瀬戸内海に浮かぶ岡山市の犬島で、直島福武美術館財団による壮大なアートプロジェクトが進む。第一期として完成した美術館「精錬所」を見学した。
プロムナードを進むと、廃虚をよみがえらせた古代神殿を思わせる異空間が現れる。明治期の産業遺産である銅精錬所跡の煙突などを生かしながら再生、風化したれんがや犬島石などを素材に設計した。
三島由紀夫をテーマに館内四つの空間を作品化したのは、世界的に活躍する美術家柳幸典さんだ。解体された三島の住宅の建具をつるすなどして再構築、向かい合わせの鏡の間では三島の文章が映像で映し出される仕掛けも。日本の近代化を考える思索の場ともいえようか。
財団が目指すのは、あるものを生かし環境に配慮した「循環型社会」のモデル施設だ。太陽や地熱などの自然エネルギーと煙突の高さによる気圧の変化を利用して館内の空調を保つ。
岡山大環境理工学部の協力も得た。植物などによって排水をろ過する高度な水質浄化システムを採用する。海を汚さない、環境に優しい徹底した取り組みに驚く。
見学は金、土、日・祝日で、予約が必要。犬島では二期目として、空き家をギャラリーにしたり、発電所跡を再生するプロジェクトも計画中だ。アートを介した島の活性化に期待が膨らむ。